頭が膨れ上がって顔のパーツは中央に

頭部

 

これは、うちの家系に起きている不可解な話。

 

まだ存命だが、じいちゃんがおかしい。

 

最初に異変に気づいたのは10年以上前、俺が中学生くらいの時だった。

 

ある日、ふと「なんかじいちゃん頭でかくね?」と感じたのが最初。

 

それに、ちょっと寄り目になっているような。

 

心配になって母に相談したが、母には分からないみたいだった。

 

「何ともない」と言われてみれば、確かに何ともないのだが・・・。

 

でも、じいちゃんを何気なく見ると、やっぱり頭がでかくて、寄り目に見える。

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あんなものは二度と見たくない

その頃から、じいちゃんは不眠を訴えるようになり、夜中に何度も家を歩き回るようになった。

 

言動がおかしいとかはなかったが、怒りっぽくなり、特に深夜に俺の部屋にやって来ては「早く寝ろ!」と酷く怒るようになった。

 

そして怒っている時に、目がギューっと中央に寄るのだ。

 

目ん玉だけではなく、目そのもの自体も昔より中央にキュッと窄まってきており、もの凄い不安に駆られた。

 

俺は何度も家族に言ったが、誰も信じてくれなかった。

 

その後しばらくして、じいちゃんは睡眠薬を使って眠るようになり、頭は少しずつ大きくなり、目がどんどんおかしくなっている気がした。

 

時は経ち、俺は高校卒業と同時に上京して家を出てからは、あまり実家に寄り付かなくなった。

 

正直、じいちゃんや、じいちゃんの異変に気づかない家族が恐ろしかった。

 

ただ、電話は頻繁にしていた。

 

「みんな元気か?」と。

 

そして1年くらい前、母から電話がかかってきた。

 

「鬱を患っていたじいちゃんが倒れた。おそらく薬の影響だろう」とのこと。

 

薬のせいで体内のナトリウムが流失してしまい、言動もおかしく、歩けなくなってしまったらしい。

 

怖かったが、内孫で可愛がってもらったじいちゃんだ。

 

俺はすぐに地元へ帰り、じいちゃんが入院している病室に見舞いに行った。

 

ただ、じいちゃんは意味の分からないことを言い、点滴も抜いてしまうらしく、個室のベッドに縛り付けられていた。

 

それに俺は、ドアを開けた瞬間に奇声をあげて叫んでしまったのだ。

 

なぜなら、じいちゃんの頭は2倍近くに膨れ上がっており、顔のパーツも全てギューっと中央に寄っていて、目は中央で左右がくっ付いてしまっているほどだった。

 

じいちゃんは寄った眼球でこちらをギューっと見た。

 

俺には、じいちゃんが人間には見えなかった。

 

奇声をあげて尻餅をついた俺を見て、家族はビックリしていた。

 

「寝ているじいちゃんが起きるだろ!大袈裟に何なんだ!」

 

ばあちゃんに叱られた。

 

呆然としていると、「顔を見せてやって」と近くまで引っ張られ、対面させられる。

 

じいちゃんは眠っていた。

 

薬の影響か、顔は腫れていたが、頭が腫れ上がっているなんてこともなかった。

 

俺がおかしいのか?

 

あれは何だったんだ?

 

俺には、俺にしか見えないじいちゃんの頭や顔の異変が、じいちゃんの心身の不調と関係があるように思えてならなかった。

 

だから親にはちゃんと伝えたが、「気持ち悪い」、「そんなことはない」と、取り合ってもらえなかった。

 

俺は「もういい」と半ば諦め、見舞いを終えてすぐに東京へ戻った。

 

でも、やっぱりじいちゃんの異常が気になって仕方なかった。

 

家族はいつも一緒にいるから変化に気がつかないのかもしれない。

 

そんな時、離れて暮らす叔父に連絡を取ってみることを思いついた。

 

叔父は一人遠方にいて、ほとんど実家に帰って来ないが、俺と近い分野の助教授ということもあり、進学や就職の相談に乗ってもらったことがある。

 

叔父に相談すると、叔父の様子が明らかにおかしい。

 

叔父は俺から詳しく話を聞きたいと、忙しいだろうに翌日の深夜に新幹線でやって来た。

 

そして、俺は叔父の話に驚愕した。

 

叔父の祖父、つまり俺の曾祖父も、晩年同じように鬱や脳の障害を患ったらしい。

 

叔父には曾祖父の頭が腫れ上がって、さらには顔が変形して見えることがあったそうだ。

 

症状が悪くなるにつれ、異常が進んでいくのも同じ。

 

他の者にはそれが見えないのも同じだった。

 

ただ、解決法や対処法は叔父にも分からないそうだ。

 

そして叔父は泣きながら俺にこう言った。

 

「父(祖父)が死んで、埋葬が終わるまで絶対にもう家に帰るなよ。終盤の姿を見たら二度と家に帰れん。俺も葬式には行けない。行きたいが、あんなものは二度と見たくない」

 

叔父が見た曾祖父の姿は想像もできない。

 

じいちゃんがあと何年生きるか分からないが、俺ももう、じいちゃんに会える気がしない。

 

(終)

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