夜釣りで釣り上げた恐ろしいもの

俺は友人のYと一緒に、

 

東京の奥多摩にある、

○丸ダムって所に釣りに出掛けたんだ。

 

そこは、釣り場にたどり着くのは

ちょっとしんどいけど、

 

結構いい釣り場で、

 

地元の人間くらいしか

来ない場所なんだ。

 

夜中に着いて、

 

陽が昇るくらいまで釣るつもりで

装備もバッチリだったんだけど。

 

その日はなんか

釣果が芳しくなくて、

 

竿に鈴付けて放置して、

 

Yとお喋りしながら

まったりと過ごしてた。

 

その時、

 

放置してあった俺の竿から

鈴の音が、

 

「ちり・・・ちり・・・ちりーん」

 

俺は慌てて合わせたんだが、

 

どうやら逃げてしまったようで

引きがない・・・。

 

とりあえず、

 

餌の付け替えをしようと

リールを巻き上げ始めると、

 

何かの感触を感じた・・・。

藻でも絡んでるのかな?

 

・・・絡んでたのは、

藻なんかじゃなかった。

 

30cmはある人の髪の毛が、

ごっそり付いて来た!

 

俺と見守っていたYは

声にならない悲鳴を上げ、

 

俺は思わず竿を放り投げた。

 

しかし、気持ちが悪いとはいえ、

竿はかなり高価なものなので、

 

仕方なくラインを切って、

竿だけは確保した。

 

夜明けには時間があったけど

続行する気にはなれなくて、

 

もう逃げるようにして立ち去った。

 

だけど・・・

逃げ切ってはいなかったんだな。

 

帰りの車の中で、

 

俺たちはさっきの髪の毛について

話し合い、

 

いつの間にかお互いの怪談を

披露しながら走ってた。

 

そのうちに、なんだか

恐怖心も薄らいできて、

 

俺もさっきの事は面白いネタになった

くらいにしか考えなくなってた。

 

しばらく車を走らせてたんだけど、

助手席の友人が喋らなくなった。

 

「おい!?俺に運転させといて

寝てるんじゃねーよ」

 

と隣を見ると、

友人は寝てるわけじゃなく、

 

なんだか青っ白い顔しながら

窓の外を見てる。

 

「おい!?気持ち悪いのか?」

 

「え!?い・・・いや・・・あのさ・・・

変なこと聞くけど・・・」

 

「なんだよ!?」

 

「歩道に女が立ってるんだよ・・・」

 

「はぁ!?こんな時間にか!?

どこだよ?」

 

「どこっていうかさ・・・

ずっと居るんだよ・・・」

 

「え!?」

 

「さっきから何回も同じ女が

立ってこっち見てるんだよ!」

 

俺は、Yがまた俺をびびらせようと

してるんだと思いながらも、

 

視線を歩道にやって

背筋が凍りついた。

 

本当にいる・・・。

 

確かにYの言った通り、

歩道に女が立ってこっちを見てる。

 

俺が思わずYの方を見ると、

Yは黙って頷いた。

 

その後、陽が昇り、

 

町へと出るまでに20回以上

その女を見た・・・。

 

もう2人とも無言のままで

地元に帰り着くと、

 

俺はYを家の前で降ろし、

 

バックミラーを気にしながら

家まで辿り着き、

 

道具も放り出して、

そのまま布団に包まった。

 

いつの間にか寝込んでいた俺を、

 

お袋がすげぇ怖い顔して

起こしに来た。

 

「あんた!!

あのクーラーボックスなに!?」

 

「へ!?いや、ちっこいのが

チョロチョロ釣れただけだから、

 

今日は何も入れて帰って来てないよ?」

 

そう言いつつ、

クーラーボックスの中を覗くと・・・

 

俺が釣り上げた『あの髪の毛』が

ごっそり・・・。

 

ラインを切って置き去りにした

髪の毛が・・・。

 

(終)

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