仲間がバイクで事故死した原因が

俺が17歳の時の話。

 

当時、俺はバイクが好きで、

色んな峠を走り回っていた。

 

一人で行く事は、

ほとんどなかった。

 

仲間内の5台前後で

行くことが多かったのだが、

 

その時は人数が揃わないために、

俺とBの二人だけで行くことにした。

 

前日に打ち合わせて、

○峠に向かうことにした。

 

その当時の○峠は、

 

日曜日になると百台以上の

バイクがやって来る、

 

走りのメッカになっていた。

 

朝7時に待ち合わせをして、

二人で○峠に向かう。

 

二人の住む場所から○峠までは、

のんびり行けば2時間。

 

俺はインパルス、

BはRZ350Rに乗り、

 

順調に○峠へ辿り着いた。

 

早そうな奴を見つけては、

バトルを仕掛けていった。

 

30分程走り、

 

休憩のため

茶屋コーナーにバイクを入れ、

 

缶コーヒーを飲みながら、

他の奴の走りを眺めていた。

 

「今の奴、かなり早いね」

 

などと、

Bと雑談していると、

 

下の方から

CBRがやって来た。

 

その後方からは

MVX250、

 

そのMVXが通り過ぎた時、

俺は焦った。

 

タンデムシートに

何かがしがみ付いている･･･。

 

それをBも確認したらしく、

 

慌ただしく缶コーヒーを投げ捨て、

ヘルメットを被ろうとしていた。

 

俺も同じようにヘルメットを被り、

Bを追い掛けるようにバイクを出した。

 

走り出して2～3分、

 

二人の前には悲惨な光景が

飛び込んできた。

 

さっきのMVXだ。

 

反対車線から来たワンボックスに、

正面衝突していた。

 

ワンボックスの後方では、

 

連れだったらしいCBRの男が

MVXのライダーを助け起こしていた。

 

俺が見た時には、

 

MVXのライダーの顎から

首筋にかけて、

 

大量の血が見えた。

 

すでに痙攣を起こしている。

 

Bはバイクをワンボックスの後方に止め、

交通整理を始めた。

 

それを見て俺は、Bに

 

「救急車を呼んでくる」

 

そう告げ、

 

電話のある

茶屋コーナーに急いだ。

 

電話を終えて現場に戻ると、

 

CBRの男がMVXの男の

ヘルメットを外し、

 

人工呼吸を始めている。

 

喉に溜まっていたであろう

血を吸い出し、

 

必死に蘇生させようとしていた。

 

だけど、激しい痙攣の後、

MVXの男は動かなくなっていた。

 

動かなくなった男を抱きながら、

CBRの男は泣き叫んだ。

 

血で真っ赤になった

口を拭きながら、

 

「何なんだよーあれは･･･

何なんだよーあいつは･･･

 

K起きろよ、起きてくれよー」

 

『何なんだよー』

 

その言葉を聞いて、

俺は鳥肌が立った。

 

見間違いじゃ無かったんだ。

 

15分が経ち、

救急車が到着し、

 

男を乗せて

走り出していった。

 

それから警察による

事故処理が始まり、

 

俺達二人も

事故の状態を聞かれた。

 

しかし、

 

二人が到着した時には

すでに事故後だったため、

 

俺達には詳しい状態は

分からなかった。

 

ワンボックスの男の人の話では、

 

相手のMVXは

 

右コーナーにもかかわらず

直進して来たのだそうだ。

 

俺達に、その行動は

理解出来なかった。

 

少なからず

回避行動はするのだが、

 

現場にはスリップ痕も

残っていなかった。

 

しばらくすると、

 

警察が呼んだレッカー車によって

MVXは片づけられ、

 

同じようにワンボックスも

引かれていった。

 

俺達はバイク仲間という意識で、

残されたCBRの持ち主を待った。

 

夕方まで待ったのだが

戻って来ないため、

 

T町にある

 

知り合いのバイクショップに

預ける事にした。

 

その場に張り紙をして、

俺達はCBRを移動した。

 

それから1週間が経過した。

 

CBRの男から連絡が来て、

 

バイクショップで

待ち合わせる事にした。

 

CBRの男はI県から遠征して

○峠に来たらしく、

 

到着するのに時間が

かかるらしい。

 

それでも、昼過ぎには

会う事が出来た。

 

CBRの男はNといい、

 

俺達よりも年上で

20歳になるらしい。

 

それからNさんに

丁重に礼を言われ、

 

しばらく話すと、

俺達に頼みがあると言う。

 

「何ですか？」

 

そう尋ねると、

 

事故の当事者と

会う約束をしたのだが、

 

○峠以外は

 

この辺の土地勘が無いので

案内して欲しいと言う。

 

この辺は俺はまるっきり知らないが、

Bは詳しかった。

 

3人はBの案内で

H市に向かった。

 

向かう途中の○峠で、

 

Nさんは事故現場に立ち寄り、

お酒を供えていった。

 

30分ほど走り、

 

ワンボックスの男の人が住む

町の近くまで来た3人は、

 

バイクを停め、

歩いて向かう事にした。

 

その人の家に着き、

男の人に会えた。

 

男の人は、

Eさんという人だった。

 

ひとしきり挨拶を済ませ、

 

Nさんは事故の瞬間について、

聞き始めた。

 

「あの時、Kは何もせずに

突っ込んでいったんでしょうか？」

 

そう聞かれたEさんは、

複雑な顔でうなずいた。

 

Nさんによると、

 

Kさんは事故を起こす手前の

左コーナーで、

 

考えられないスピードで

Nさんを抜き、

 

そのまま一直線にワンボックスへ

向かって行ったのだそうだ。

 

そして、

 

「でもね、抜かれた瞬間にKを見たら、

Kの後ろに誰かが見えたんだ。

 

だからそれがすごく気になって･･･」

 

そう言い終わった時、

突然Eさんが

 

「やっぱり･･･」

 

と呟いた。

 

そしてEさんは、

 

「ぶつかる瞬間、俺も見たんだ。

K君の後ろにいた奴を」

 

俺達は驚いた。

 

「そんなこと警察には言えんしさ」

 

そして続けた。

 

「後ろにいた奴は、

 

2年前に事故で死んだ

友達だった」

 

3人共、何も言えなかった。

 

俺達は別れた。

 

俺とBは自宅に向け、

そしてNさんはI県に向けて。

 

（終）