お祭り好きの幽霊(前編)
久しぶりに会った同級生に誘われて、
旧友数人で近くの大きな花火大会に行った。
しかし、早速後悔。
そういう体質だと自覚してはいたのだが。
左腕が重い。
しがみ付いているのは浴衣を着た、
10代半ばの結構かわいい女の子。
ただし半透明。
いわゆる幽霊って奴だ。
俺は気がついていないフリをしているのだが、
「あれ美味しそう」だの「これかわいい」だの、
俺の腕を引っ張っては主張してくる。
そんな感じでしばらく屋台を覗いていたんだが、
俺が無反応なせいか、幽霊はスネ始めた。
幽霊
「あーあー、つまんない。
久しぶりに気がついてもらえてるかと思ったのに」
そう言って文字通り、腕にぶら下がりだす。
幽霊
「やっとお祭りに来れたのに、つまんない・・・」
寂しそうにうつむく幽霊。
俺の胸に湧き上がる罪悪感。
いやしかし、幽霊なんぞに気に入られても
楽しい事は何もない。
長年の数々の憑依体験から、
悪質な幽霊ほど誘惑が上手いと知っている。
幽霊
「私が生きてたら、これってデートみたいな感じだし、
キスぐらいしてあげてもいいのになー」
負けました・・・、俺。
幽霊の言葉に反応し、
思わずチラリと。
にんまり笑う幽霊と、
ばっちり目が合った。
幽霊
「次は金魚すくい、ノルマ20匹!」
離れて欲しければ楽しませろと脅された俺。
財布はガンガン軽くなっていく。
俺
「おっしゃ、金魚は俺が全部すくってやるぜ!」
やけくそ気味に盛り上がる俺。
ワケがわからないなりに同調して騒いでくれる友人たち。
そうこうしていると、花火が上がり始めた。
幽霊
「花火見るの!
もっといい場所にダッシュで移動!!」
俺
「この人ごみで走るのはさすがに危険だろ!
なるべくいいところへ移動するから、ちと待ってろ」
急ぐ姿を友達に笑われつつも、
何とか人の波を掻き分けて、
そこそこ見える場所へ移動した。
幽霊
「って、みーえーなーいー!!」
俺
「痛っ!!」
小柄な幽霊に人垣はちと高かったらしい。
幽霊だから他の人の身体に被るし。
だからって足を蹴るな。
つま先をかかとで踏みにじるな。
俺
「あーもー」
仕方なく一旦、人の少ないところへ移動。
不満げにこちらを睨みつける幽霊を、
小さい子供にするように抱き上げた。
幽霊
「!?っんな、や、ばっ!!」
俺
「これなら俺の頭より高くなるから見えやすいだろうが」
幽霊
「えっ?・・・え、ああ、おー、そういうこと・・・」
俺の頭にしがみ付きつつ、
納得する幽霊。
傍から見ると、見えない何かを抱えている俺の姿は
怪しい事この上ないが、この際、仕方ない。
幽霊
「よーし、もー1回見に行きなさい。
今度は最前列!!!」
俺
「無茶言うな」
調子のいい幽霊にややムカつきつつも、
俺も不思議と楽しいと感じ始めていた。
(続く)