首切り坂で見てしまったもの
家の近くに小さな小山があるのだが、そこには『首切り坂』と呼ばれる坂がある。
勾配も大したこともないし、長さもせいぜい200メートルくらいのごくありふれた坂なんだけれど、「出来る限りそこへは絶対に行くな」としつこく言われていた。
その当時、小学生だった兄も、中学生だった姉も、学校へ行くのには遠回りになるのにそこを避ける。
だが、その当時の俺はイタズラ好きのガキ・・・。
そう言われると何が何でも行きたくなるもので、友達と遊んで別れた後、こっそりその坂に行ってみた。
前から歩いてきた男
頃は夕方だった。
舗装もされていないし、雑草があちこちに生えているし、道幅は狭いし、暗いし・・・。
でも結局好奇心が勝って、ゆっくりと坂を登りだしたのは良いのだが、前から誰かが歩いてくる。
しかし逆光でシルエットのようになって、せいぜい”大人”という事くらいしか分からない。
俺は気にせず坂を登り続けた。
だいぶ距離も詰まった時、その人影から「ギー」とでも「ザー」とでもいえる凄く不快な音が聞こえてきた。
よくよく見ると、右手に何かをぶら下げて引きずっている。
大体1メートルから2メートルくらいの棒状の物を。
さすがに気味悪くなって早足ですれ違おうとした時、そっちを見た。
その男が持っている棒状の長い物が何か、ようやく分かった。
弁慶が持っているような“大きな槍”のような感じのものだった。
だが、まだ顔は見えない。
その瞬間、その男が「うおおおぉ!」という訳の分からない大声を出しながら、俺の方へと突進してきた。
なんとかかわして慌てて後ろを振り返ると、そこには誰もいなかった。
いくら小さな坂とは言っても、さすがに数秒で何処かに行けるほど短くないし、かと言って分かれ道もない。
雑草も身を隠せるほど高くはない。
結局、泣きながら逃げ帰った。
帰りが遅いのでカンカンに怒っていた父も、心配していた母も、探しに出ようとしていた兄や姉も俺の泣きっぷりに驚いていた。
そして、最近になって兄と姉と「一緒にあの坂に登ってみよう」という話になった。
驚くことに、二人とも登ったことがなかった。
結局、しばらく行ったところで行き止まりだった。
どうりで学校へ行く時に遠回りして行ったわけだ、と納得したのだが、それならあの時に俺が見た”槍男”は何だったんだろう。
坂の途中に家なども無かったし・・・。
(終)