とわとわさん 2/2

窓

前回までの話はこちら

結局高校を退学した俺は、みんなが大学生になった歳になっても相変わらずニート生活を送っていた。

 

何度か働こうとしたが、田舎だから俺が高校を中退して引きこもっている事は、ほとんどの人に知れ渡っている。

 

どの仕事も、最後には人間関係がギクシャクするようになって長続きしなかった。

 

そして20歳になった誕生日の夜、何もする事がなくてパソコンをしていたのだが、突然に部屋のドアが開いた。

 

両親とも働いているから居ないはずなのだが、確かに開いている。

 

鍵でも故障したのかな?と思い、パソコンから一旦離れてドアをチェックしたが、特に異状はない。

 

何だったんだよ!と思いながらパソコンが置いてある机に戻ろうとすると、ヤツが居るのを見つけてしまった。

 

パソコンが置いてある机の横で、気をつけをして俺を見ている。

 

俺は思考が停止した。

 

何が起こったのか、全く理解できなかった。

 

ヤツと目が合ったまま、目を逸らすと何かとてつもない事が起きそうだったから逸らせない。

 

そのままヤツは1時間くらい同じ場所、同じポーズ、同じ顔で居て、あの時と同じように部屋から出て行った。

 

この時、確信した。

 

またヤツとの時間が始まるのか、と。

 

予想通り、ヤツはその日から俺の前に姿を現し始めた。

 

ただ以前と違うのは、同じ時間に同じ場所ではなく、さまざまな時間、さまざまな場所で現れるようになった。

 

服装は変わっていないが、風呂を入ろうとしたら居たこともあるし、朝起きたら目を開けたまま隣で寝ていたこともある。

 

さすがにこの時は心臓が止まりそうになったが、特に危害を加えるわけでもないし、ホラー映画のように髪が長い女でもないからそこまで怖くもない。

 

もう自分の中では、「とわとわさんはとわとわさんだ」と割り切っていた。

 

でもある時を境に、妙なことに気づき始めた。

 

とわとわさんの顔が、だんだん変わっていっている。

 

少しずつ怒りの成分が顔に注入されている感じだった。

 

怒っているのかな?と思っていたが、やっぱりどう見ても怒っているということに気がつき始めて、だんだんヤツと遭遇するのが怖くなっていった。

 

それで携帯を買ってもらったことを境に、俺はほとんど一日をベッドの中で過ごすようになった。

 

こうすれば、以前のように隣でも眠られない限り大丈夫だ。

 

いざヤバくなったら、昔みたいに怒鳴って追い返せば来なくなるだろう、と。

 

結果から言えば、20日間をほぼベッドの中で過ごした。

 

その間、高校生だった頃のように、起きたら部屋の中に人の気配がすることも何回かあったが、携帯に集中していると気にならなかった。

 

だが、ベッド生活19日目で、さすがに体に異変を感じ始めた。

 

トイレや飯を食べようと立ち上がると、立ち上がれないほどになっていた。

 

筋肉を全く使わずに寝たきりだから仕方ないのだが、とわとわさん出現率の高い風呂にも入っていないから臭い。

 

もうこれ以上、とわとわさんに振り回されっ放しではダメだと思った俺は、ついにヤツを追い払うことにした。

 

ベッド生活20日目。

 

この日は、なるべくとわとわさんと遭遇できるよう行動することにしたのだが、ヤツはすぐにやって来た。

 

朝起きると、部屋に気配を感じた。

 

チャンスがいきなり巡ってきた。

 

しかし、変な音が聞こえる。

 

何かを蹴るような音だ。

 

恐る恐る布団の隙間から覗くと、とわとわさんが部屋の柱を蹴っていた。

 

木の柱は硬くてビクともしていない。

 

だが、とわとわさんの足は血か何かで真っ赤に腫れ上がっていた。

 

何度も何度も、そこに何かがあるわけでもないのに蹴り続けている。

 

恐ろしくなった俺は「ひっ・・・」と少し大きめの声を上げた途端、ヤツは蹴るのをやめた。

 

そして、顔がこちらに向いた。

 

親切なことに、俺の目線の位置まで頭を下げてくれた。

 

顔は無かった。

 

のっぺらぼうだった。

 

それを見た途端、布団を閉じた。

 

そして次に見た時にはもう居なかった。

 

その後に帰って来た両親は、家中に散乱した血を見て悲鳴をあげた。

 

俺が殺人を犯したと思い、警察と一緒に部屋に入り込んできたのだ。

 

それで俺も事の次第を知った。

 

近所に人が集まって「とわとわさん」なんて言い出したら何と言われるか分からないから、必死に身の潔白を証明した。

 

家宅捜索もされたが、結局は何も見つからずに終了した。

 

挙句、半狂乱になった俺が自分を傷つけて血をばら撒いた、という結論になった。

 

それをきっかけに、この地域に居られなくなって引越した。

 

後日談

確かに話の中盤に関しては、自分が狂っていた部分もあると思っている。

 

だからこそ、この話は今まで話せずにいた。

 

だが、とわとわさんに関する伝承、小3の時に見たのっぺらぼうは確かに事実と言える。

 

血が飛び散った件に関しては、もうごちゃごちゃになって分からない。

 

今は大学に行っている。

 

進学のきっかけは、親から泣いて頼まれたこと。

 

そして、件の事件で近所から執拗なバッシングを受けて孤軍奮闘したこと。

 

あれから一度だけ、とわとわさんに遭遇したことがある。

 

大学に入って「5月病で今日はサボるか・・・」と思い、起きてから1時間ほど何もせず布団の中でじっとしていた。

 

すると急に、本当に急に部屋の中に人の気配が現れた。

 

確信があった。

 

そっと覗いてみると、見慣れた足。

 

とわとわさんだった。

 

あの事件によってとわとわさんを恨むなんて感情はその時には一切なく、久々に会ったせいか、心の中はどちらかといえばプラスの感情が大きかった。

 

サボろうかという感情は一切なくなり、とわとわさんに向かって「今から行くわ」と言っていた。

 

すると、とわとわさんは「ああ」と言って、気づいたら居なくなっていた。

 

これがとわとわさんの最初で最後の発声だった。

 

この後、バイトや講義をサボることは何度かあったが、とわとわさんは現れていない。

 

そして最近、とわとわさんが居る地域の友達と会う機会があった。

 

その友達は同級生で、俺が高校を中退しようが狂おうが、縁を繋ぎ続けてくれた唯一無二の親友だ。

 

その友達が言うには、「最近とわとわさんがドラマに映った」と大騒ぎになったらしい。

 

もちろん、とわとわさんはその地域に匿われているはずなので、東京でロケしたドラマに映るはずがない。

 

お気づきかも知れないが、おそらく俺がとわとわさんを野に放った張本人だ。

 

友達には口が裂けても言えないが。

 

とわとわさんも元のところに帰りたくて困っているのだろう。

 

しかも都会は怠け者が多いから、ついついちょっかいをかけたくなるのかも知れない。

 

もし俺みたいにとわとわさんと会ったことで狂ってしまったら、最近「ニートの息子が親を殺す」なんてニュースをよく耳にするが、あれもとわとわさんが絡んでいないとは言えない・・・。

 

俺にはとても言い切れないが、俺も一歩間違ったら危ないところだった。

 

(終)

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