そこにあるはずのない白い浴衣

和室

 

私の実家は築80年の古屋敷。

 

まだ私が高校生の頃、叔母が遊びに来て何泊かしたことがあった。

 

客間は部屋と部屋の真ん中にあり、家の中で一番日が当たらない陰気な部屋だった。

 

そして、何日か目の朝食時に叔母が母にこう言った。

 

「枕元の壁に掛かっている浴衣が気になるから別の場所に移してもらえない?」

 

もちろん、そんな浴衣は初めから掛かっていなく、私たち家族は顔を見合せ、ただ叔母が寝ぼけていたんだろうくらいに思っていた。

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みえる人には見えているようだ

それから何年かして私も社会人に。

 

ある時、両親が旅行に行き、一人では心細いので後輩の同僚に泊まりに来てもらった。

 

しかし、私の部屋は二人寝るには狭かったので、客間に布団を並べて就寝した。

 

何事もなくその日は過ぎ、それからしばらく経った頃、その同僚には”霊感がある”ことを知った。

 

私は面白半分で、「何年か前にうちに泊まりに来てもらったよねえ。うちってあの通り古いけど何か感じた?」と聞いてみた。

 

とっさに同僚の顔つきが変わり、黙り込んだ。

 

私は、何だか恐いけれど気になるので遠慮しないで言って、とせがんだ。

 

すると同僚は、「寝かせてもらった部屋の枕元の壁、あそこに掛かっていた白い浴衣が気になりました」と言った。

 

そんな浴衣など初めから無いので詳しく聞いてみると、白地に紺の柄が入った、入院患者のおばあちゃんが着る様な浴衣が一枚掛かっていたそう。

 

ずっと以前の叔母の発言と重なり、さすがに怖くなったので、生前の父に話してお祓いをしてもらう様に説得したけれど、相手にしてもらえないまま今に至る。(私も叔母の発言は忘れていたくらいなので、その同僚に叔母の発言は話したことはない)

 

現在は、父亡き後に母が一人で住んでいます。

 

白い浴衣は確かに気になるけれど、長年住んでいて家や家族に災いが起こったこともないし、私も結婚して家族で泊まりに行く時もその客間で寝たりしています。

 

(終)

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