じいちゃんは大事な鉈を沼に落としてしまい・・・
俺のじいちゃんは林業をやっているのだが、イソップ寓話にある『金の斧』のような体験をしたそうだ。
そこには、じいちゃんしか使わないであろう山道を1時間くらい入ったところに小さな沼がある。
それは春の終り頃だった。
枝を鉈で落としながら道を確保していると、軍手をしている手から鉈がすっぽ抜けて沼に落ちた。
今まで沼は危ないからと近寄らなかったが、大事な道具だったので仕方なく沼のほとりに立った。
沼の大きさは、広いところでも直径5メートルくらい。
水の色は泥で黒く、浮き草のようなものもたくさん浮いていて底が見えない。
近くの手頃な木の枝を折って水を突いてみたが、枝の先はズブズブと沼に飲まれていつまでも底につかない。
じいちゃんはすぐ諦め、もと来た道を引き返し、釣り堀で使うような柄の長いタモ網を持って沼に戻った。
すると、沼のほとりにある小さい岩の上に、鍋のフタと錆びた糸きりバサミが置いてあった。
それを見たじいちゃんは思わず「これじゃない」と言ったが、気味が悪いからすぐ引き返した。
翌日、再びタモ網を持って確認しに行くと、鍋のフタと糸きりバサミは無くなっていて、(代わりに?)岩の側の桑の木にじいちゃんの鉈が刺さっていたそうな。
前日に探した時は見つからなかったし、水に落ちる音も確かに聞いたので、てっきり沼の中に落ちたとばかり思っていたそうだが、結局は「よく分からん」と言って首を傾げていた。
(終)