毎朝変わる彼女の駅
X駅とZ駅の間に、A、B、Cと各駅停車しか止まらない駅が3つ続く。
X駅とZ駅との短い距離の間に、この3つの駅はひしめき合うように配置されており、なぜか不思議な存在感を放っている。
これは、その路線で通学していた頃の話。
僕は毎朝同じ時間の同じ車両の窓際に寄りかかって通学していたのだが、ある朝、A駅で停車中にふと外を見ると、反対側のホームにとてもきれいな女子高生を見かけた。
可愛いなぁ。
そう思いながら、毎朝同じ時間にいるのかな?とも思った。
次の朝も、いつものように同じ時間の同じ車両の窓際に寄りかかってA駅で反対側のホームを見たが、その子はいなかった。
ちょっとだけガッカリしてぼーっとしていたら、次に停車するB駅の同じく反対側のホームにその子を見つけた。
理由はわかないが、乗車駅を変えたのかな?と思った。
そのまた次の朝、また同じ時間に同じ車両の窓際に寄りかかってB駅で停車するのを待っていたが、その子はいなかった。
またちょっとだけガッカリしてぼーっとしていたら、今度は次のC駅の反対側のホームに立っていた。
どうして駅を変えるんだろう?
不思議には思ったが、あまり深くは考えないようにした。
次の朝、彼女はA駅にいた。
その次の朝、予想通り彼女はB駅にいた。
その後も彼女はA→B→C→A→・・・と、毎朝きっちり順番に駅を変えていた。
それが2ヶ月くらい続いたと思う。
ある日、僕は風邪をひき、学校を休んだ。
次の朝、また同じ時間の同じ車両の窓際に寄りかかって電車に乗った。
前々日の彼女はA駅にいたので、その朝はC駅にいるはずだった。
しかし、彼女はB駅にいた。
さすがにゾッとしたので、次の朝は時間を変えて一本前の電車に乗ることにした。
乗換えと混雑は嫌だったが、普通ではなく快速に乗った。
車両も変え、一番後ろの車両の窓際に立った。
A駅を通り過ぎ、B駅も通り過ぎる。
まさかいないだろうな…と思いつつ、C駅を通り過ぎるのを待つ。
すると、電車が急ブレーキで突然停車した。
どうやら人身事故らしい。
停車から1分ほど過ぎた頃、僕のいたドアの向かい側はC駅のホームの端で、人々は何事かと大騒ぎしていた。
そして、いつもと違う車両、違う時間なのに、彼女はそこにいた。
騒ぎなんて全く気づかないかのように、僕の方をじっと見つめており、微かに笑っているようにも見えた。
ギョッとした僕は下を向き、早く電車が出発してくれるのを待った。
次の日から彼女は全く姿を現さなくなった。
新聞で人身事故の記事を読んだが、若い女性が飛び込み自殺をしたということしかわからなかった。
この数ヶ月、まるで夢を見ていたような不思議な体験だった。
今では彼女の通っていた学校の制服もデザインが変わったようで、通勤電車で女子高生を見かけて当時を思い出すこともほとんどなくなった。
でも、彼女が今どこでどうしているのか、たまに気になってしまう時がある。
(終)