20時の境界線と見えない話し声たち
これは、夜の会社で怖い体験をした話。
私はコールセンターに勤務している。
勤務先は5階建ての自社ビルで、最上階がオペレーターが電話応対をするフロア。
1~4階は事務処理部門のフロアになっており、地下は食堂と倉庫という作りだ。
また、2階と4階には自販機が設置された休憩室がある。
コールセンターの受付業務は18時で終了する。
その日は仕事を終えた後、2階の休憩室でお茶を飲みながら同僚と話していた。
そして、気づけば20時を過ぎていた。
「さすがに遅くなったし、そろそろ帰ろっか」
そうして休憩室を出たその時、どこからか、ざわざわとたくさんの人が話している声が聞こえてきた。
それは、日中にオペレーターがいるフロアの廊下で聞くような、何十人もが同時に話しているかのようなざわめきだった。
廊下に出てみると、各フロアへのドアには縦長のすりガラスがはめ込まれているが、そのどのドアも明かりは消えている。
そして、休憩室向かい側のドアから話し声が聞こえていた。
私はすぐに帰りたかったが、同僚は怖いもの知らずの性格だ。
「これヤバくない?ちょっと確かめてみる」
そう私に囁くと、躊躇することなくドアを開けた。
その瞬間、ざわめきはピタリと止んだ…。
暗闇の中、だだっ広い事務所が広がっていた。
窓が3面にあるため、薄暗いながらも部屋の様子は見渡せる。
しかし、当然のことながら、そこには誰ひとりいなかった。
後日、よく話をする警備員さんに「こんなことがあった」と話したところ、「ああ、2階の南側でしょ?警備員はみんな知ってるよ。でも、怖がるから会社の人たちには言わないであげてね」と、さらりと言われた。
それ以来、私は20時前には会社を出るようにしている。
あの時、ざわめきがピタリと止んだ後の沈黙は、今思い出しても本当に怖かった。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、日常の中に潜む非日常の怖さや、不思議な体験が人に与える心理的な影響です。語り手は、いつもと変わらない職場での何気ない時間を過ごしていましたが、普段ならあり得ない「ざわめき」を聞いたことで、非日常の感覚に引き込まれます。その後、誰もいない暗い部屋を目にし、日常の中での安全な感覚が揺さぶられました。この経験を通じて、人は得体の知れない現象に対して、理屈では説明できない恐怖を感じるのだということが伝わってきます。
また、警備員の何気ない反応が、怖さを強調すると同時に、こうした不思議な出来事が他人にとっては当たり前である場合もあるという意外性を示しています。最後に、語り手がそれ以来20時前に会社を出るようになったというエピソードは、怖い体験が行動や生活に具体的な影響を与えることを象徴しており、この話の余韻を強く残しています。