遠足先で遭遇した異界のトイレ

 

これは、小１の時に行った遠足での話。

 

小学校に上がって初めての遠足で、すごく楽しかった。

 

行った場所は何もない野原みたいな公園で、あるものといえば休憩所ぐらいのものだった。

 

柵に囲われた公園内を走り回り、お弁当を食べて、それから先生が「帰るよ～」と声をかけてきた。

 

はしゃいで遊び回っていた私は、その時になってようやくトイレに行きたいなと思った。

 

でも、公園内にトイレはない。

 

どうしよう、漏れちゃう…。

 

学校まではきっと我慢できないと青ざめていると、すぐそばにいた子が「あそこにトイレあるよ」と言った。

 

見ると、遊んでいる時はまったく気がつかなかったけれど、公園の隅にある木の影に隠れるように古びた公衆トイレがあった。

 

石垣のすぐそばにあるせいか、鬱蒼としていて暗い。

 

怖くはあったけれど、漏らしてしまうよりはいい。

 

私は走ってトイレに向かった。

 

男女別ではなく、個室が１つぽつんとあるだけのトイレ。

 

しかもドアがない。

 

幸いにも入口からは見えないようにしてあったけれど、粗いコンクリートがむき出しの壁が薄汚れていて、なおさら暗く怖かった。

 

それに、そこはボットン便所だった。

 

外から見えないのはわかっていたけれど、それでも気になり、ちらちらと横目で気にしながら用を足していると、突然「ボーウ」と、くぐもったような音がした。

 

聞き間違いかと思いながらティッシュを捨てると、また「ボーウ」と音がした。

 

よく聞くと、下から聞こえてくる。

 

普通の子ならば怖いと思うかもしれないけれど、祖母の家がボットン便所で、時折風のせいで音がすることはわかっていたから、なんだ風か、と気にせずに個室を出た。

 

洗面所もないトイレだったので、とりあえずのようにつけられていた蛇口をひねって手を洗っていると、不意に背後に気配を感じた。

 

子どもではない大人のような存在感。

 

もしかして先生が来ちゃったのかなと振り返ると、誰もいなかった。

 

遠くで「ゆりちゃ～ん」と呼んでいる先生の声が聞こえた。※仮名（私）

 

その瞬間、一際大きく「ボーウ」という声が響いた。

 

それは明らかに『声』だった。

 

しかも、下からではなく上から聞こえた。

 

ボットン便所の風の音ではないと気づいた瞬間、ざっと鳥肌が立ち、慌ててトイレから出た。

 

その時、背後から恐ろしいくらいの気配を感じた。

 

「ゆりちゃん！探したのよ！」

 

走って走って、気づけば先生のすぐそばまで来ていた。

 

どこに行っていたの？と言われて、ゼイゼイと呼吸を乱しながら「トイレ」と答えた。

 

すると先生は、公園内をぐるりと見渡した。

 

「茂みでしてきたの？ティッシュは持ってた？」

 

「えっ？」

 

どういうことかと思い、「あっちにトイレが」と指差した先には木しかなかった。

 

３０メートルほどしか離れていない場所で、見間違いようもない。

 

トイレはなかった。

 

ぼんやりとしていると、「さあ帰るよ～」と先生が歩き出した。

 

ぞろぞろと付いていく同級生に続いて、私も歩き出した。

 

ふと、「ボーウ」と声がした。

 

振り返ると、木の陰にトイレはあった。

 

やっぱりあったんだ！

 

「ほら先生、あのトイレに」と、先生に声をかけようと振り返った背後で、一際大きな声がした。

 

「ボーーーウウウウ」

 

驚いてトイレを見ると、そこには人影があった。

 

真っ黒で人の形をした影。

 

それは一瞬ブワッと膨らみ、驚いて瞬きをすると、トイレごといなくなっていた。

 

結局あれが何だったかはわからない。

 

ただ時々、今でも街中であの気配を感じる。

 

気のせいだと思いたい。

 

（終）

ＡＩによる概要

この話は、ゆりちゃんが小学校１年生の時、初めての遠足で訪れた野原のような公園で、遊び回っている最中にトイレに行きたくなります。公園にはトイレがないと思っていたところ、友達から教えられた古びたトイレを見つけます。しかし、そのトイレは不気味で、しかも「ボーウ」という謎の音が聞こえてきました。トイレを使った後、不思議な気配を感じたゆりちゃんは、トイレの存在を先生に確認しようとしましたが、トイレは消えてしまい、代わりに黒い人影が現れました。この出来事は、未だにゆりちゃんの記憶に残っており、時折その気配を感じることがあるという不思議で怖い体験談です。