なぜ私はベランダにいたのか?
私は10歳の頃、マンションの3階に住んでいた。
ある夜中のこと、いつも通り布団に入り、気持ちよく寝入ろうとしていると突然、母が私の肩を力いっぱいに掴んで、凄い大きな声で怒鳴られた。
「あきちゃん!あきちゃんって!何してるの!!」※仮名
「はぁ?何よ?」
せっかく気持ちよく寝そうなところを起こされた私は、キレ気味に掴まれた手の方を見て唖然とした。
本当に何が起きたのかわからず、ぽかーんとした。
なぜなら、布団で寝ていたはずの私は何故かベランダにいて、柵を乗り越えるような姿勢で両手と片足を掛ける途中だったから。
母は必死にそれを止めようとしていた。
その時は頭の中が?マークでいっぱいで、怖がることすら出来なかった。
「あれ?なんでここにいるの?何してるの?」
そう母に尋ねると、こう言われた。
私はいきなりベランダへ行き、大声で「お兄ちゃ~ん!待って~!」と叫びながら飛び降りかけていたらしい。
ただ、私には兄なんていないし、思い当たる節もなく、夢を見た記憶どころか眠りに入る直前だったので、やっぱりぽかーんとしながら自室に戻り、再び寝た。
それから何ヶ月が経った頃だったろう。
学校から帰ると、マンションの前に人だかりが出来ていて、ドラマで見るような立入禁止の黄色いテープを警察が剥がしているところだった。
何が起きたんだろう?と近づくと、ちょうど人だかりがぞろぞろと解散して、後には何も残っていなかった。
シミのような跡は残っていたかもしれないけれど、曖昧な記憶しかない。
家に帰ってから母に聞いてみると、うちのマンションの6階で、ベランダから5歳の子供が落ちて亡くなったそうで。
その子はベランダに置いてあった箱を踏み台にして柵をよじ登ったらしい。
ただ、そのベランダのある部屋は、ちょうど私の部屋の3つ真上だった。
数ヶ月前に私に起こった事と関係あるのかどうかはわからない。
だけど、数年経ってから少しずつ怖くなっていた。
今はもう引っ越したけれど、そのマンションは今でも残っている。
(終)