日常に潜む奇妙な兆しと結末

包丁

 

これは、自営業を数年間していた時の話。

 

毎朝早く起きて、まだ子供だった娘と仕込み作業をしていました。

 

その日も仕込みでオニオンスライスを作っていたら、指先に痛みを感じて見ると、少し皮膚を削いでいました。

 

よくあることなのですが、娘が「おかしいよ!」と騒ぎ出しました。

 

「だって、玉ねぎはまだスライスし始めたばっかりで、まだ大きなやつだし、お母さんは上の方を持ってたし。私、見てたよ。全然スライサーの刃には触ってなかったよ。でも指先は切れてるんだから、やっぱり刃に触ったってことだよね?」

 

「うん、まあそれはそうなのかな…」

 

そんなやりとりをした後、マキロンとバンドエイドで簡単な手当てをしてから仕事を続けました。

 

そうすると、もう一度あったのです。

 

ゆで卵のみじん切りを作った後に、卵で汚れた長い包丁を濡れタオルで拭いた時でした。

 

「つっ…」

 

指先に痛みを感じて、また少し皮膚を切っていました。

 

今度は確かに「おかしい」と思いました。

 

厚みのある濡れタオルで包丁は完全に包んで拭ったので、切れるわけがないのです。

 

でも切れていました。

 

なんだかわからないけれどヤバそうだと思ったので、とりあえず粗塩をティッシュに包んで胸元にはさみました。

 

それから当分の間は気をつけていたのですが、ひと月以上経って忘れた頃に指先を落としました。

 

機械の点検中、刃にはガードも付いており、また手順通りにしていたので、起こるわけがない事故。

 

私のミスということにしかならないけれど、あれは決してミスではなかったと思っています。

 

ティッシュで指先のない指を抑えながら、「もぉ…何これ…。これが結末なのかな?でもまあ、これで終わったんだよね?」という、妙な安堵感がありました。

 

救急をたらい回しにされたり、入院やら移植やらで、色々と大変な状況だったけれど。

 

結局は何が原因なのかわからないけれど、それからは『御守り』を肌身離さず持つようにしています。

 

(終)

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