散歩の時に双眼鏡を持って行くワケ
俺の祖母は、毎日朝早くに一人で散歩に行く習慣がある。
そして、その時には必ず『双眼鏡』を持って行くのだ。
その理由を尋ねた時に、こんな話をしてくれた。
山の間に巨大な・・・
それは祖母がまだ幼い時のこと。
ある日の早朝にたまたま目が覚めて家の外に出ると、はるか遠方、山の間に巨大な何かが顔を出していることに気づいたという。
呆然と眺めているうちに、ソレがこちら側にどんどん近づいていることが分かり、すぐに両親を起こしたそうだ。
両親もソレを見て驚き、3人で手分けして集落中に伝えて回った。
そうして集落の人々を全員集めて、出来るだけ遠くに避難することになったという。
その日の正午、ようやくソレは集落を通り過ぎた。
その頃には祖母を含む集落の人々は数キロ離れた林の中でまとまって隠れていたそうだが、そこからでもはっきりと見えるほどのソレの巨体と、響き渡る「オ゛ーッ、オ゛ーッ、オ゛ーッ」という声が強烈に印象に残ったという。
集落は何故か全く荒れていなかったそうだ。
もちろん、ソレが何なのかを知っている人はいなかった。
それ以降、祖母はソレが怖くて仕方なく、毎朝早起きしてはソレがいないか確かめるのが日課になったという。
でも今では町の建物が高くて、家の近くからでは遠くの山まで見ることが出来ないため、わざわざ少し遠出して、双眼鏡で景色を見ているということだった。
ちなみに、先日初めて俺は新宿に行き、ビルの高さと多さに驚いたのがきっかけでこの話を思い出した。
あれだけバカ高いビルが所狭しと並んでいたら、そういうモノがすぐ近くまで来ても気づかないかもしれない。
※(参考)ダイダラボッチ
日本の各地で伝承される巨人。類似の名称が数多く存在するが、以下では便宜的にダイダラボッチと呼称する。山や湖沼を作ったという伝承が多く・・・(Wikipediaより)
(終)