登山中に道を間違えた先で目にしたもの
これは、友人らと4人で山に行った時の話。
最初のうちは順調に登っていたが、途中で道を間違えていることに気が付いた。
何かおかしいと思った頃には、すでに獣道だった。
だが、GPSや衛星携帯を持っている気楽さから、特に気にせずそのまま進み続けることに。
そうしてしばらく進んでいると、道中の岩棚の上に『地蔵』があるのが見えた。
しかし近付いてみると、それはただの岩の塊だった。
ではなぜ地蔵かと思ったかと言えば、ダルマのようにちょうど座った人型をしていたことと、首の辺りに赤いよだれ掛けがしてあったからだ。
こんな人気のない山中で、まるで色褪せていないそれが少し不気味だったが、我々には興味がそそる場所でもあったので、とりあえず全員で記念写真を撮ることに。
撮った後に友人の一人が、「これって・・・もしかして供え物したら無事に帰れるフラグじゃね?」と言い出したので、リュックの中にあった冷凍ミカンを供えることにした。
そうしてジャンケンに負けた私が地蔵の前にミカンを置き、手を合わせた。
すると、耳元で「だんだん」と言う、子供の声がした。
「お前ら、ふざけるなよ」
誰かのイタズラだと思った私は、そう言って笑いながら振り返ると、後ろに立っていた3人は真っ青な顔をしていた。
その途端に自分も怖くなって視線を前に戻すと、“地蔵が笑っている”のが目に入った。
確かに、さっきまではただの岩だったのに、明らかに目と口が笑っている。
次の瞬間、一人が走り出すと、つられて全員がそこから全力で逃げ出した。
そんなに走っていないはずなのに、気が付けば麓の駐車場に着いていた。
その時に逃げながら振り返って見た、木々の中に浮かぶ赤色と、不思議な言葉が今でも忘れられない。
※「だんだん」について|参考
この言葉は主に中国地方の山陰側の方言で、「だんだん(重ね重ね)ありがとうございます」と言うべきところを、「ありがとうございます」が省略されて、ただ「だんだん」とのみ言うことがある。
(終)