霊感持ちの彼女の悪意とその結末
※全て仮名
何年か前、友人たちとアパートで飲み会をした。
その時に、酔った勢いで心霊スポットに行くことになった。
知っている人も多いだろう、大阪の有名な”あのスポット”だ。
その場にたまたまいたセナも誘って行こうとなったが、私はあまり気が進まなかった。
セナは人付き合いが悪いというより性格が悪いため、友人らしい友人はいない。
わりと整った顔をしているのに、いつも嫌な感じの薄ら笑い浮かべ、こちらから声をかけない限り話すこともない。
まれに話すことがあっても、皮肉ばかり吐く。
仲が良いとはとても言えない子だった。
その飲み会にもただ酒を飲みに来ただけといった感じで、誰も誘っていないのにやって来ては、みんなが怪談で盛り上がっていてもただニヤニヤ笑いながら黙々と酒を飲むだけ。
そんな彼女をわざわざ誘ったのは、半信半疑ながら「セナは霊感がある」と言われていたからだ。
ただ、誘ったが「行かない」と言った。
それでも、「そこをなんとか…」と何度が頼むうちに、「そんなに行きたければ4人で行けばいいじゃない。それとも、もっと人数が多くないと怖くて行けないの?」と煽る。
すると、短気でいつもセナに食って掛かるヨシキが、「うるせぇよ!こんなに誘っても来ないお前こそ怖いんだろうが!もう行こうぜ。こんな奴、もう誘うな」と言い捨てた。
セナもさらに突っかかる。
「君の方がうるさいじゃない。そもそも小学生じゃあるまいし、口喧嘩でうるさいなんていい大人が言えるもんじゃない。君はほんとに大学生ですか?下の毛が生え揃っているかも疑問だね」
結局、顔を真っ赤にしてものも言えないヨシキを引きずり、私達だけで行くことになった。
その周辺まで車で行き、しばらくウロウロしながら喋っていたが、何も起きないのでアパートに帰ろうと車に乗った。
その時バックミラーに、“車の後ろにぎっしりと並ぶ、青白い顔で焦点の合わない目をした人の群れ”が映った。
私は必死でエンジンをかけようとしたが、いくら鍵をひねっても、うんともすんとも言わない。
そんな気配を察した一人が後ろを向いて悲鳴を上げたので、車内の全員がソレに気づいた。
ソレらはあっという間に車を取り囲み、ペタペタ、ガンガンと音を立てるが、しばらくしていなくなった。
その直後、すぐにエンジンがかかったので、飛ぶようにアパートへ帰った。
アパートにはすでにセナはおらず、全て飲み尽くされたビールやチューハイの空き缶が転がっているだけだったが、そんなことを気にする余裕もなく、ただ全員が無言でそれぞれ帰宅した。
そんなことから何週間か過ぎた頃、ヨシキが行方不明になった。
最後の目撃情報によると、件の場所にぼけっと立っていたらしい。
なんとなく、いなくなった理由はわかる。
みんなセナの勧めでお寺へ御祓いに行ったのに、彼だけが来なかったのだ。
セナに聞くと、ニヤニヤしながら「ヨシキにだけは御祓いを勧めなかったよ」と言った。
続けて、「前々から鬱陶しかったし格好の機会だと思って何も言わなかったんだよ。君ら全員背中に4~5人背負ってたから、放っておけば必ず連れて行くと思ってね」と。
セナは故意にヨシキに御祓いを勧めず彼を行方不明にさせたのだ。
そんな彼女は今とある役所に勤めている。
今でも訪ねると、あのニヤニヤした笑いで迎えてくれる。
(終)