その車に乗っている時だけ見えるもの

廃車

 

車で大事故に遭い、大怪我と廃車になってしまってから半年。

 

退院してから中古の安い車を買ったのだが、その車がすごく怪しい

 

車検満タンに全塗装済みにもかかわらず、捨て値で売ってくれた。

 

ひと月の給料で買えるくらいの値段だ。

 

贅沢は言えないのでそれに乗っていたが、ハンドルの下辺り、ちょうど膝が当たる部分に穴が開いていた。

 

多分というか、まず間違いなく事故車だろう。

 

相当な勢いで当たったのか。

 

それと、ドアポケットには写真が1枚入っていた。

 

どうやら前に乗っていた人の写真のよう。

 

もちろんその人のことについては何もわからない。

 

正直気持ち悪かったが捨てることも出来なかったので、元の場所に戻して忘れることにしたのだが、この車に乗るようになってから不思議なことがたくさん起きるようになってしまった

 

例えば、夜に車が滅多に通らないような山道で、対向車が猛スピードで前からやって来て自分の車に突っ込んだと思ったら、光が車の中を通過し、そのまま通り抜けて走り去って行ったり。

 

ある時は、国道で反対車線側の斜め向かいから白いワンピース姿の女性が真っ直ぐ車の方に向かって突っ込んで来たり。

 

普段は何も見えないのに、その車に乗っている時だけ何かが見えてしまう。

 

それには徐々に慣れていったが…。

 

そしてまたある時、自分が前に乗っていた車が「廃車置場にあった」と聞いたので、友人2人と車2台で見に行った。

 

途中、墓地を通過した時、真っ暗闇の中に座り込んでいるおじいさんが1人。

 

気になったので、通り過ぎてしばらく行った所で車を止めて、前を走っていた友人らに聞いてみたが、「そんな人はいなかった」とのこと。

 

この時から、嫌な予感しかしなかった。

 

気を取り直してそのまま進み、墓地を抜けると廃車置場があった。

 

車内が血だらけになったままの車だったが、自分の血なので特に怖くはない。

 

ただ、その隣にあった同じように血だらけになっている車から、物凄く変な感じを受け、「なんかヤバいから帰ろうぜ」と車に乗り込んだ瞬間、その車の運転席に眠るように座る男性が見えた。

 

慌ててエンジンをかけて帰ろうとすると、友人の車がうんともすんとも言わなくなってしまった。

 

「何やってんだよ!早く!」

 

「セルは回ってるのにかかんないんだよ!」

 

そうしている間にも、嫌な予感はどんどん膨らんでいく。

 

けん引用のロープを持っていたので急いで車を繋いだが、その頃にはもう友人らの様子がおかしかった。

 

バックミラー越しに運転席と助手席にいる2人を見ると、明らかに生気がない顔をして、どこか遠くを見つめている。

 

家に帰るまでも会話をしている様子が全くなく、それこそ幽霊のような感じだった。

 

その日から友人2人は仕事を休みだし、そのまま1ヶ月が経ってしまった。

 

その友人の親からは、「仕事に行くように言ってくれないか?」と頼まれて部屋に行ってみたものの、ぼーっとしてテレビのリモコンを持って1秒ごとにチャンネルを変え続けるだけで反応がない。

 

そのまま数時間、ずっとチャンネルを変え続けていた。

 

別の友人の方はもっと悲惨だったらしいが、どんな様子だったのかは詳しく知らない。

 

結局、2人をお祓いしてもらった途端、次の日から何事もなかったかのように仕事に出だした。

 

やはり何かに取り憑かれていたようで。

 

しかし、色んなものを見た俺自身は何もなかったと思う。

 

ただ、念のためにと俺もお祓いしておこうと神社に行ったが、なぜか断られてしまった。

 

それも、どこへ行っても。

 

(終)

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