亡き親友からの警告電話
久しぶりに亡くなった父の夢を見て、ふと思い出しました。
これは、私が小学2年生だった頃の話です。
まだその頃は病気で療養中の父も一時退院できる時もあったので、自宅で一緒に過ごしていたこともありました。
亡くなった父は、よく不思議な現象を口にする人でした。
例えば、「友達と山へ遊びに出かけたけれど突然雨が降ってきて、同じ所を何回もぐるぐる回っていたら知らない女の人に追いかけられた」とか、「昔の幽霊の絵がどうして足がないのかわかったよ。暗くて足元が見えないからだね」とか、そんなことを普通の顔で言う人でした。
ある夏の夜、父は1階の自分の部屋で、私は2階の自分の部屋で就寝していました。
母は出張か何かで他府県に出かけて留守だったと思います。
しばらくして、電話が鳴る音が響き渡りました。
ダイヤル式の黒電話を当時利用していたのですが、1階と2階が親子電話になっていて、切り替え可能なタイプの電話でした。
私は電話の音ですぐ目が覚めるので、「あれ?こんな遅くに誰からだろう?」と思っていたのです。
その時、1階から「お前、どうしたんだ!?死んだんじゃないのか?」と言う、父の大きな声が聞こえてきました。
小さな家でしたので、2階の部屋から階段を駆け下りて1階の電話口までたどり着くのに時間はそうかかりませんでした。
父の元へ向かうと、顔面真っ青な父は電話口の誰かと話し込んでいます。
私は口パクで、「お父さん、誰?誰?」と聞くと、父はシッシッと手で追い払うような仕草をしました。
不思議な現象は慣れているものの、案の定、部屋の電灯が点滅し始めました。
その間も父は、「いいか、お前は死んだんだぞ。死んでいるのにどうして電話をかけてこれた?いいか、お前は死んだんだぞ!」と、繰り返し子供に言い聞かせるように諭していました。
点滅している部屋の電灯が元に戻った時に、私は「お父さん!電話切って!」と声を張り上げました。
このままだと父が連れて行かれると思ったのです。
その後すぐ、父が受話器を置き、チンと音が鳴りました。
相変わらず父は顔面蒼白で、「恐ろしかった…」と言うのです。
そのまま父と私は恐怖で沈黙して、応接室の部屋をあかあかと灯し、明け方まで一睡もしませんでした。
次の日の朝、何事もなかったかのように父が朝食の目玉焼きを作ってくれました。
今でも覚えているのが、あの電話は何だったのか、声に出して聞くことができませんでした。
恐らく、忘れたかったのだと思います。
一人だけなら夢で済むのですが、父と二人してなので何とも不思議な出来事でした。
ただ、父は母に詳細を話していました。
やっぱり夢ではありませんでした。
父が他界する少し前にこの出来事を思い出した私は、あの時の電話の内容を聞いてみました。
あれは亡くなったはずの父の親友からの電話で、「死にたくない…死にたくない…。俺は、死んだのか?」という内容の電話だったそうです。
それだけなら父も慣れたことだと思うのですが、何がそんなに恐ろしかったのかと聞くと、「お前も、もうすぐだぞ」と言われたからだそうです。
私も時々、不思議なことに遭遇することがあります。
それは第六感なのか、気のせいなのか、偶然なのか、定かではありません。
(終)