異国人に向けられた無数の目
俺はアパレル業界に就いているのだが、中国の雇用費上昇と品質低下のため、新規生産国を開拓してバングラディシュを一つに据えることになった。
これは、そこで簡単な制作指導と現地調査、また交流を含めてバングラディシュに行った時に起こった話。
ダッカなどの都心部は東京にも負けないほど近代的で凄かったが、ちょっと外れただけでトトロ級の田舎というのか、電気や水道も満足に通っていないような農村が広がっている。
生産工場はそんな場所にあって最初こそ面食らったが、そういう環境は嫌いではないので何気に楽しみだった。
ひと通り現地の人たちに指導し終えて談笑していたら、「今日は村に泊まっていけ」と言う。
ホテルはバリサール近辺に取ってあったが、折角だし厄介になることにした。
その村は比較的裕福な感じで、家庭用ゲーム機(PS2)を使ったゲームセンターやコンビニ風の商店があった。
外国人が来るのは結構珍しいらしく、俺の周りに人がわーっと集まって、ちょっとした芸能人気分を味わった。
ちなみに、全員が男で女性はいなかった。
アラダドさん(仮名)の家に厄介になったのだが、彼の家族も暖かく迎えてくれて嬉しかった。
その夜のこと。
ベッドでPCを弄りながらウトウトしていたら、急に“人の気配”がした。
それも、一人ではなく何十人という単位の…。
上手く説明できないが、映画館なんかで人は大勢いて喋らないが息遣いや気配はあるという感じ。
その村では夜は完全に停電しているため明かりはPCのモニタだけだったが、それを振って室内を見回しても誰もいない。
ゾクゾクっとして、早く寝てしまおうとPCを閉じてベッドに潜り込んだが、気配は依然としてある。
霊の類か?勘弁してくれ…と思いつつ、怖いもの見たさで目を開けて見回したが、やっぱり何もいない。
なかなか眠れず何度かそれを繰り返しているうちに、目が慣れたのか、壁の方に白い線を横に引いているようなものが見えた。
あれ何だろ?と見ていたら、『人の目』がずらっと横一直線に並んでいる。
しかしなぜだかわからないが、それを見た途端にすごく冷静になって、「よし寝よう」とすぐ眠れた。
翌朝、アラダドさんに話そうか迷ったが、余計なことを言って怖がらす必要もないかと思い、黙っていたが…。
前日に現地人に囲まれた時、アラダドさんが言っていた。
「都市では珍しくないが、こういった農村だと外国人を一生見ることが出来ない人も多い。だから彼らは外国人を見ると、物見遊山で集まり、ひっきりなしに出身国を聞いてくるんだ。許してやってくれ」
俺が見たのが現地人の『霊』だとしたら、彼らも俺を見てみたかったのだろうか。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、異文化や未知の体験を通じて人間が持つ「見る」「見られる」という関係性の本質と、それが生む共感や畏怖の感情です。異国で外国人として注目される語り手は、現地の素朴な人々との交流を通じて温かさや人間らしさを感じる一方、夜に「目」に囲まれるという神秘的で不気味な体験をします。しかし、その出来事を単なる恐怖としてではなく、未知のものを知りたいという純粋な好奇心の表れとして受け止めます。この話は、文化や生死を超えた人間の共通性を描きつつ、未知への対応には恐怖だけでなく共感や想像力が必要であることを示しています。