見えない存在に手を振られた日
これは、2ヶ月ほど前の話です。
友人に「霊感があるかわかるテストがある」と言われ、やってみました。
ご存じの方も多いテストかと思いますが、内容は次のようなものでした。
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目を瞑り、頭の中で今自分が住んでいる家を想像する。
入り口から入り、すべてのドアを開けて回り、ドアを開け終わったら入り口まで戻る。
次に、今度はドアを閉めて回り、入ったところから家を出て、最後に目を開ける。
この時、途中で振り返ったり目を開けたりしてはいけない。
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言われた通りに実行しました。
入り口から入り、ドアを開け、すべて開け終わったら閉めて回り、家を出る。
終わったところで友人に聞かれました。
「今、ドアを閉めて回った時、家の中に誰かいた? 影でもいいよ」
私は素直に「3、4人、人の形をした黒い影がいた」と答えました。
どうやらこのテストは、「家の中に誰かいたり、影が見えたら霊感がある。誰もいない、何も見えない場合は霊感がない」というものだそうです。
友人からは「多くない? めっちゃ霊感あるんじゃん?」と笑われました。
しかし、私はこれまで一切、いわゆる心霊体験をしたことはありません。
それを友人に話すと、「えー、きっと体験したのをわかってないだけよ」と、また笑われました。
そこで私は、ふと思ったことを聞いてみました。
「さっきの黒い影なんだけどさ、最後のひとつがこっちに向かって手を振ってたよ」
「え?」
「だから、最後に家を出る前にいた黒い影がさ、こっちに手を振ってたの。右手で、『ばいばーい』って」
すると、友人は少し黙ってから言いました。
「ごめん。そんなの聞いたことない」
「え?」
「そんな動きをしてくる奴なんて、今までいなかった」
「でも私は見たよ」
「あのさ、だいたい家の中にいるのは実際の家の中にもいる幽霊とかなんだよね。霊感があると、普段は見えない存在を脳内で感じられるようになるの。だから何かしらの形で見えるらしいの」
「ふむ」
「そういうのって、ほとんど無害。家にいるのって大概は浮遊霊らしいの」
「へえ」
「でもアンタに手を振ったのがいた。つまり、アンタを認識してアクションしてきてるんだよ」
「ん?」
「もしかしたら、アンタに興味があって取り憑いてるのがいるんじゃない?」
それから2ヶ月。
今のところ、家でもどこでも変わったことは起こっていません。
何の確証もない、ただの友人の意見です。
でもあれ以来、なんだか怖くて件の霊感テストはしていません。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいのは、「霊感」や「見えないもの」に対する人間の捉え方や感情の揺れ動きです。霊感テストという一見遊びのような行為を通じて、語り手は普段は考えもしない「見えない存在」の可能性と向き合うことになります。その結果、ただのイメージの産物かもしれない「黒い影」を見たことが、友人の反応によって非日常的な意味を帯び、恐怖心を引き起こします。
特に「最後の影が手を振った」という具体的な描写は、テストの枠を超えた異常な体験として印象的です。それが「普通ではない」と友人に告げられたことで、ただの遊びだったはずの行為が不気味さを伴い、語り手の日常に微かな影を落とします。しかし同時に、現実では特に変わったことが起きていないという事実が、この恐怖をどこか中和しているのもポイントです。
この話は、目に見えないものへの興味や畏怖、そしてそれが人の心理に与える影響を描いています。何も確証がないにもかかわらず、人は「かもしれない」という不確かな可能性に心を揺さぶられ、それをきっかけに日常を異なる目で見始める。そうした「未知の世界」に対する人間の複雑な感情が、この出来事の核心にあるといえるでしょう。