ある噂と封じられた体育館にて
俺が卒業した高校は、ヤンキーの割合が高く、いわゆるバカの受け皿のような学校だった。
そこまで言わなくても…と思うが、友人が高2でやっと掛け算や割り算を習っていると知ったとき、俺もバカなんだと再確認し、多少は恥ずかしくなった。
そんな母校での話。
七不思議のようなものはなかったが、先輩たちの話をいくつか聞いているうちに、一つの事実にたどり着いた。
自殺の噂。
かつて、校内で生徒の自殺があった。
これは紛れもない事実だった。
現在はテニスコートになっているが、当時はそこに体育館があった。
その体育館内の倉庫で、一人の生徒が首を吊り、翌日に発見されたのだ。
遺書は残されていなかったらしく、さまざまな噂が飛び交った。
やがて噂は自殺の理由から『幽霊騒ぎ』へと発展し、体育館への立ち入りは禁止された。
しかし、もともと素行の悪い生徒が多い学校だったため、ルールを無視して夜の学校に忍び込み、肝試しをする者が後を絶たなかった。
当然、先生たちは困り果て、仕方なく夜間警備を始めることになった。
「面倒なことになった…」
先生たちは誰もがそう思ったそう。
ただでさえ手のかかる生徒たちを、昼間だけでなく夜まで見張らなければならない。
しかも、自殺者が出た体育館の周辺を巡回するのだ。
誰だって避けたい役割だった。
結局、先生たちは交代で夜警にあたることになったが、実際は体育館が見える別棟の教室にこもり、窓から明かりがちらつかないか確認する程度だった。
それでも、生徒たちは次々と夜の学校に侵入し、先生に見つかっては帰される。
まさにイタチごっこだった。
そんなある夜のこと。
夜警をしていた先生の元に、男子生徒数名が血相を変えて駆け込んできた。
怒るつもりだったが、あまりの慌てぶりに、思わず「どうした?」と尋ねる。
「縄! 縄だよ!」
「俺たち、見たんだって! また誰か吊ってるって!」
「縄が見えたんだよ! 早く! ヤバいって!」
先生も焦り、体育館の鍵を持って生徒たちと一緒に駆け出した。
体育館に到着し、窓から中を覗くが…何も見えない。
鍵を開けて中に入ると、暗闇の中に月明かりが差し込んでいるだけだった。
倉庫へ走り、扉を開ける。
何も変わらない、ただの倉庫だった。
「クスクス」
「ブハッ(笑)」
やられた…。
先生はすぐに気づいた。
「あるわけねぇーじゃん!」
「走りながら笑い堪えるの大変だった~」
「中に入ってみたかったんだよね~。ありがと、せ・ん・せ・いっ(笑)」
生徒たちは爆笑し、先生をバカにしたように笑い続けた。
先生は激怒した。
「こんな夜遅くに学校へ来た上に、人をからかってどういうつもりだ!親は知ってるのか! 女の子まで連れて、何かあったらどうするつもりだ!どこのクラスだ! 名前を言え!」
当然の怒りだった。
だが、生徒たちは謝るどころか、「はぁ?」と不満げに食い下がってきた。
先生も負けじと説教を続けようとした、そのときだった。
「ちょ、ちょっと先生…」
「何だ?」
「俺たち、女子なんか連れてないよ?」
「はあ? じゃあ、そこにいるのは誰だ?」
全員の視線が、先生が指差した先へと向けられる。
そこには、首に縄を掛けた女の子が静かに佇んでいた。
次の瞬間、全員が絶叫した。
「うわああああ!!」
我先にと出口へ走り、必死に逃げ出す。
外へ出た瞬間、先生は慌てて体育館の鍵をかけた。
全員が息を切らしながら顔を見合わせ、自然と体育館へ視線を向ける。
そのときだった。
そこに、首を吊った人特有の、見るに耐えない顔がこちらを見下ろしていた。
翌朝、先生たちは体育館の外で倒れているのを発見された。
そして、全員の首には、縄が食い込んだような痕が残っていた。
それから数週間後、老朽化を理由に体育館は取り壊され、今では立派なテニスコートがある。
そして、こんな噂が流れた。
自殺した生徒が自ら命を絶った理由の一つは『いじめ』だった。
その『いじめ』をしていたのは、あの夜、恐怖体験をした生徒たちだった。
そして、その『いじめの事実』を知りながら、見て見ぬふりをしていたのが、あの夜、夜警をしていた先生だった。
噂はあくまで噂であり、真偽はわからない。
しかし事実として、あの夜の体験をした生徒は自主退学し、先生は療養中のまま学校に戻ることはなかった。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、因果応報や、過去の過ちが思いがけない形で報いをもたらすことへの警鐘です。
話の中心には、生徒の自殺という悲劇があり、その背景には「いじめ」があったとされています。そして、そのいじめに関わった者たちは、直接手を下した生徒だけでなく、見て見ぬふりをした先生まで含めて、恐怖という形で自らの行いの報いを受けることになりました。彼らが幽霊を見たことは偶然だったのか、それとも本当に恨みを抱いた魂の仕業だったのかはわかりません。しかし、彼らがその後、学校に留まることができなくなった事実は、彼らの心に深く刻まれる出来事となったはずです。
また、単なる「怖い話」ではなく、人間の無責任さや軽率な行動が、思いがけない形で跳ね返ってくることを示しています。生徒たちは最初、肝試しをただの遊びだと考えていました。しかし、彼らが笑いながら踏み込んだ先で目にしたものは、決して冗談では済まされない現実でした。人を傷つけたことを軽んじた者が、恐怖をもってその重みを知る。この話は、そうした教訓を含んでいるのかもしれません。