病院で働く私が辞めた理由

リハビリ室

 

これは、1年ほど前の話です。

 

当時、私はとある『病院』で働いていました。

 

とはいっても医師や看護師ではなく、社会福祉士の資格を持っていたのでリハビリ科に所属していました。

 

主な業務はデスクワークのようなものでした。

 

患者さんたちと話す機会ももちろんありましたが、相手はほとんどがご高齢の方や入院患者さんでした。

 

私の仕事で一番大切だったのは、監査の準備です。

 

主任が主にチェックをするのですが、どこの病院もそうであるように、監査の前は泊まり込みで膨大な資料をチェックし、補足を行います。

 

当然、それに日々の通常業務も重なります。

 

仕方なく残業する日々でした。

 

その日も、これまでと同じように居残りでPCの前に座っていました。

 

リハビリ室には私一人だけ。

 

主任はすでに帰宅していました。

 

私は元々怖がりな性格で、「大丈夫、スタッフステーションには夜勤の看護師さんたちもいるから…」と自分に言い聞かせながら、必死で仕事を続けていました。

 

病院ではよくある話ですが、不思議な体験がしょっちゅう起こります。

 

静まり返った部屋で仕事をしていると、私のタイピング音に混じって、微かにキーッという音が聞こえました。

 

振り返っても誰もいません。

 

怖くなった私は、「もう帰ろうかな。明日の朝、早く来てやればいいか」と声に出して言いました。

 

急いでPCの電源を切り、荷物をまとめて立ち上がりました。

 

そして背後のドアの方を振り返ろうとした瞬間、視界の右端にリハビリ道具の置いてある場所が目に入りました。

 

そこには、シルバーカーが2台並んでいました。

 

その前に、一人の小柄なおばあちゃんが立っていたのです。

 

徘徊患者さんがいることは珍しくありません。

 

しかし、ドアには開けた形跡がなく、入院患者の中にそのおばあちゃんがいた記憶もありませんでした。

 

仮に新しい患者さんだとしても、私たちリハビリ関係者には事前に通達があるはずです。

 

一瞬で全身に物凄い悪寒が走りました。

 

固まって動けない私の方へ、その老女が近づいてきます。

 

彼女は目の前まで来ると、私の腰に手を回して抱きついてきました。

 

濁った目でじっと見上げてきたかと思うと、ゆっくりと口を大きく開けて…。

 

「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」

 

赤ん坊のような泣き声が、リハビリ室中に響き渡りました。

 

どれくらい時間が経ったのかわかりません。

 

突然、名前を呼ばれる声と肩を強く叩かれる感覚で、我に返りました。

 

「伊藤さん!?伊藤さん!!」※仮名

 

振り返ると、3階の看護師長が立っていました。

 

なんでも、リハビリ室から甲高い悲鳴が聞こえたので慌てて来てみると、私は呆けたような顔で叫び続けていたそうです。

 

その場には他に、二人の看護師と介護師もいました。

 

安心した私は、思わず泣き出してしまいました。

 

結局、あの老女が誰だったのか、そして何だったのかはわかりません。

 

この出来事がきっかけで、私は怖くてその病院を辞めてしまいました。

 

今でも当時の同僚とはたまに連絡を取りますが、私が働いていた頃と同じように、足音やナースコール、笑い声などの怪現象が頻繁に起こっているそうです。

 

これが、霊感ゼロの私が体験した恐怖体験です。

 

(終)

AIによる概要

この話が伝いたいことは、病院という生と死が交錯する場所特有の不思議な空気の中で、説明のつかない恐怖体験を通じて、人間の脆さや未知への本能的な恐れを描いています。孤独な夜の仕事中に起こった出来事は、単なる心霊現象のように見えつつも、語り手の疲労や心の限界が影響している可能性を暗示しており、現実と非現実の境界を曖昧にしています。

しかし、この話が単なる恐怖だけで終わらないのは、最終的に同僚たちの存在が語り手に安堵と救いを与える点です。人は未知の恐怖に直面するとき、一人では不安に押しつぶされそうになりますが、周囲の人々の助けや温かさが、それを乗り越える力を与えることを示しています。この体験は、恐怖そのものだけでなく、恐怖を超えた先にある人間関係の大切さや安心感をも伝えているのです。

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