隙間からずっと見ている女

隙間から覗く女

 

これは、ついこの間の週末にあった話。

 

繁華街で仲間うち数人と飲んでいた。

 

その店は、一定以上の食べ物を頼むと飲み物が無料になるシステム。

 

俺たちは帰る時間まで存分に飲み、気持ちよくなったところで店を出た。

 

帰り際、自分だけ違う方向の電車だったので、仲間たちに別れを告げ、電車を待つことに。

 

繁華街ということもあり、電車はすぐに来たが、やはり人が多い。

 

前の方に立ち、降りてくる人を待っていた。

 

そのとき、電車の壁側に寄り添う形で待っていた俺は、“あり得ないもの”を見た。

 

「早く降りろよ」なんて思いながら頭を下に向け、ため息をついた。

 

たくさん飲んだときって、こういう仕草をしがちだ。

 

「ふー」っと。

 

だから、そのときは偶然、視線を下に落としただけだった。

 

すると、電車とホームの間に、不自然に白い顔をした女の人らしい”モノ”と目が合った。

 

全く生気を感じられない無表情だった。

 

思わず「うおっ」と、小さく声を出してしまったと思う。

 

こういう不可解なものに突然出くわすと、案外、本格的な反応なんてできないものだ。

 

混乱しながら一度目を逸らし、もう一度見た。

 

いなくなっていた。

 

「え、人? それなら駅員さんに。いや、でも、あり得ない…」

 

そんなふうに頭の中で考えを巡らせているうちに、降りる人が終わり、周りの乗客たちが乗り込み始めた。

 

後ろの人に急かされる形で俺も電車に乗り込み、満員の中に収まった。

 

「結構飲んだし、見間違いだよな」

 

そう自分を納得させながら電車に揺られ、帰宅した。

 

家に着く頃には、かなり酔いが覚めていた。

 

もういい時間だったし、風呂に入って寝るかと思い、風呂場へ向かった。

 

体を洗っているとき、妙に寒さを感じた。

 

そこで、換気のために家を出る前、窓を少し開けていたことを思い出した。

 

立ち上がって窓に手を伸ばそうとした、そのとき。

 

また、あり得ないものを見た。

 

窓の隙間に、さっきの不自然に白い女の顔が、闇に浮かんでいた。

 

また、目が合った。

 

「うわっ!」

 

声を出して後ずさりし、そのまま転んで尻餅をついてしまった。

 

窓から目が離せない。

 

女も、依然としてこちらを見ている。

 

ここは2階だ。

 

風呂場の窓の周りには、屋根とか足掛かりになるようなものはない。

 

つまり、こいつは…。

 

恐怖心が一気に爆発し、風呂場から飛び出した。

 

一目散に部屋へ駆け込む。

 

急いで服を着ながら、自問する。

 

「なんでだ? 俺、なんもしてねえよ。なんで見てんの?」

 

そのときだった。

 

部屋の隅から、「カタンッ」と音がした。

 

反射的に目を向けると、クローゼットが開く音だった。

 

その隙間に、女の顔があった。

 

理不尽な恐怖を感じ、半分キレ気味になっていたと思う。

 

「アアアアッ!!」

 

叫びながら、クローゼットをバンッと閉じた。

 

衝動的に家を飛び出そうとも思ったが、「これってついて来てるよな? どこに行っても同じだろう」。

 

そう思い直し、変な方向に決意を固めて布団に潜り込んだ。

 

毛布を深く被り、なるべく意識しないよう目を閉じた。

 

それでも、部屋で物音がするたびに心臓がバクバク鳴る。

 

「知らん、知らん!」

 

そう思いながら、なんとか寝ようと頑張った。

 

しばらく経つと、物音が落ち着いた。

 

少し安心したところで、さらなる追い打ちがきた。

 

明らかに布団の中、俺の耳元で…。

 

「ずっと、見てるから」

 

そう聞こえた。

 

戦意喪失。

 

「もう無理」となったところで、意識が飛んだ。

 

でも、本当に原因が思い当たらない。

 

なんであいつは俺を見るんだろう。

 

あれ以来、隙間が怖い。

 

(終)

AIによる概要

この話が伝えたいことは、日常の中でふとした瞬間に現れる「理不尽な恐怖」の感覚や、説明のつかない出来事が引き起こす不安についてです。語り手は酔いが覚めていくにつれ理性を取り戻しながらも、不可解な存在に出会ったことで心が揺さぶられます。その存在は、「見間違い」や「酔っ払いの錯覚」という安心できる解釈をことごとく否定し、現実感を持って彼に迫ってきます。

この経験は、明確な原因や解決策がないまま、恐怖がどこまでも追いかけてくる感覚を描写しています。話の中で特に強調されるのは、「自分が何かをしたわけでもないのに、なぜこの存在が自分を見つめるのか」という理不尽さと、それに対する人間の無力感です。

そのため、この話は人間がコントロールできない状況への無力さと、それに伴う恐怖の本質を伝えていると言えます。また、見た目には普通の生活や環境の中に潜む“隙間”が、異常や未知の世界と繋がっているかのような不気味さも感じさせ、読者に「見えないものへの恐怖」を改めて意識させる物語になっています。

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