突然の別れと逃れぬ恐怖
もう10年以上前の話だが、とある県の24時間サウナで意気投合した男の話。
彼には結婚を考えていた女性がいた。
ある日の晩、一緒に繁華街で遅い晩飯を済ませ、軽く飲んだ後、彼女をタクシー乗り場まで送った。
「次はいつデートしようか?」
浮かれて尋ねる自分に、彼女は「うーん…。もう会えないかもね。今日でお別れかな」と。
突然の別れ話に呆然とし、言葉が出なくなった自分を尻目に、タクシーのドアが閉まり発車。
すると、目の前の交差点で猛スピードを出している車が、タクシーの横腹に突っ込んだ。
呆然としていたが、衝突音で我に返り、慌ててタクシーまで走った。
しかし、後部座席は見るも無惨な状態で、一面真っ赤になった車体を見て、彼女を助けることは不可能だと悟った。
「今日でお別れかな」
瞬時に、その言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
彼女はもしかして、このことを予知していたのか?
偶然だと片付けるにはあまりに不自然な彼女の言葉に、全身の毛が逆立つような寒気を覚えた。
それ以来、タクシーに乗ろうとするたびに彼女の言葉が頭をよぎり、次に自分がその言葉を口にしてしまうのではないかと思うと、怖くてタクシーに乗れなくなった。
最近、彼は「歩いて行ける距離なら乗り物は使わず徒歩で向かうよ」と苦笑いを見せた。
彼の話を聞いた俺も、それからしばらくはタクシーが怖かったのは言うまでもない。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、予期せぬ別れや不可解な偶然がもたらす恐怖と、それによって生じる心の傷の深さです。
愛する人との突然の別れは、それだけでも大きな衝撃ですが、彼女の別れ際の言葉と事故のタイミングがあまりにも符合していたために、単なる偶然とは思えず、まるで運命が決まっていたかのような不気味さを感じさせます。この出来事が彼の心に深く刻まれ、日常生活にまで影響を与え続けていることが、恐怖の余韻をより強調しています。
そして、その話を聞いた「俺」もまた、彼の恐怖を共有し、しばらくタクシーに乗ることが怖くなったという点から、人の恐怖やトラウマは他者にも伝播し得るものだということも示唆しています。