夜中の倉庫で出会った異界の住人
これは、長距離運転手の友達から聞いた話。
ある日のこと、『大阪の倉庫』で荷下ろしの順番を取るため、夜中の1時頃に到着した。
それでも3番手だったそうだ。
とはいえ、5台ずつ荷物を降ろすので、朝一番に降ろすのと変わりはないとのこと。
友達はひと安心して、運転日報を書き始めた。
すると、助手席のドアをコンコンと叩く音がした。
顔を上げて覗いてみたが、誰もいない。
気のせいか…と日報を書き始めると、また助手席の方からコンコンと。
初めてその倉庫に来た運転手は、受付の場所や待機場所がわからず、起きている運転手に尋ねることがよくある。
友達は最初、それだと思ったらしい。
しかし、またしても誰もいない。
(風が強めに吹いていたから、そのせいで何かが規則的に当たっているのかもしれない)
そう思い、腰を上げて助手席の下の方を覗き込もうとしたその時…。
今度は運転席側からコンコンと。
(えっ?)
顔を上げかけた動きを止め、窓の下を覗くと、小学3年生くらいの男の子がニコニコと笑っていた。
窓を開けて「何か用か?」と聞くと、その男の子はダッと駆け出し、トラックの後ろの方へ走っていった。
(なんだ?)
そう思いながら窓を閉め、再び日報を書き始めると、またコンコンと。
顔を上げると、また男の子がニコニコと笑っている。
窓を開けると、再び男の子はダッと逃げ、トラックの後ろへ走り去る。
友達はいい加減イライラしてトラックを降り、「こらっ! イタズラするな!」と怒鳴った。
さらに「こんな時間に何してるんや!」と問い詰めながら、後ろにいる男の子に近づこうとした瞬間、ハッと気がついた。
(今は夜中の1時過ぎだよな…。マジな話、どうしたんだ? 家出か? 迷子か?)
そう考えながら、「おーい、ぼうず。お父さんかお母さんは?」と声をかけた瞬間、男の子はトラックを回り込むようにトタトタと走り出した。
「おい、待て!」
追いかけてトラックの角を回った時、予想していた場所よりずっと遠いところに男の子がいた。
(え? 俺より速い…?)
少しパニックになりながらも追いかけ続けたが、どうしても追いつけない。
(んなバカな…)
トラックの角を再び回ると、男の子の姿は完全に消えていた。
キョロキョロしていると、前のトラックの荷台の上に座り、足をコンコンと揺らしているのが見えた。
そのトラックは箱車で、荷台の高さは4メートル弱。
唖然として見上げていると、男の子の姿はかき消すように消え、今度は10メートルほど上にある倉庫の屋根で座っているのが見えたという。
後でその倉庫の人に話を聞いたところ、「ああ、ここ出るんや」と他人事のように答えられたらしい。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、日常の仕事の中でふと遭遇する不思議な体験や、説明のつかない出来事が持つ奇妙さや恐ろしさです。長距離運転手という職業柄、夜間に人気のない場所で長時間待機することは珍しくなく、その環境が不気味な雰囲気を強調しています。何度も繰り返される「コンコン」という音や、不自然に速く移動する男の子の姿、そして最後に屋根の上に現れる様子は、現実と非現実の境界が曖昧になる瞬間を象徴しています。
さらに、倉庫の人が「ここは出る」と平然と言う結末は、そうした不可解な出来事がその場所では日常的でありながらも、外部の人にとっては恐怖や畏怖を感じさせるものであることを示しています。
この話は、合理的な説明ができない状況に直面した時の人間の本能的な反応や、そうした出来事が私たちの心に残す印象の強さを物語っています。