あの子はまだ傍にいた
当時、母・兄・私の三人で暮らしていた。
その日は仕事の疲れもたまっていたので、休みを利用してお昼頃まで寝ていた。
「そろそろ起きるか~」と思い、体を起こそうとした瞬間、金縛りに。
私はしょっちゅう金縛りに遭っていたので、「またか~、やだな~、早く終われ~」と、呑気に考えていた。
でも、いつもと何かが違う。
目は開いていないはずなのに、まぶたの裏がすごく眩しい。
そのうえ、お腹の上にドスンッと衝撃が走った。
まるで、小さな子どもが乗ってきて、ぎゅっと抱きついているような感覚だった。
さすがに「なんだこれ……いつもと違う」と混乱し始めた、そのとき。
耳元で「連れてっちゃうよ」と、無邪気で可愛らしい女の子の声が、はっきりと聞こえた。
その瞬間、バッと体が動くようになり、一目散に自分の部屋から飛び出した。
するとちょうど、兄も自分の部屋からバンッと飛び出してきた。
お互いに「お、おはよう……」と、何とも言えない空気で挨拶し合い、リビングに向かった。
そこで私は、さっき体験したことを兄に話した。
すると、兄もまったく同じような金縛りに遭っていたという。
ただ、兄の場合は「一緒に遊ぼうよ」という言葉だったらしい。
二人して青ざめているところに、買い物から戻ってきた母が帰宅。
私たちは、必死に状況を説明した。
話を一通り聞き終えた母は、「ああ、もうすぐ〇〇ちゃんの命日だね」とぽつり。
私も兄も、その瞬間まで忘れていた。
私たちにはもう一人、妹がいたということを。
それは私たちが小学校低学年の頃のこと。
母が妊娠したが、生まれてすぐに亡くなってしまった妹がいた。
一応、生まれたという扱いになっていて、ちゃんと名前もついている。
私も兄も、その妹の姿を見たことがなかったし、そのあとに別の妹が生まれたこともあって、すっかり記憶の奥に追いやっていた。
その後、私たちはお墓参りに行き、「ごめんね」と謝った。
これが、私が体験した唯一の心霊現象だった。
でも、なぜ私だけ「連れてっちゃうよ」って言われたんだろう……。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、「忘れていた大切な存在が、ある出来事を通して心に呼び戻された」ということです。
語り手と兄は、かつて幼くして亡くなった妹のことをすっかり忘れていました。しかし、金縛りという非日常的な体験を通じて、妹がまるで何かを伝えに来たかのように現れます。彼女の言葉や存在は、ただの怖い体験ではなく、命日が近づく中で“思い出してほしい”“忘れないでほしい”というメッセージのようにも感じられます。
話は、「家族としてのつながり」や「忘れてしまっていた過去への向き合い方」、そして「亡くなってもなお、心のどこかに存在し続ける命」について静かに語りかけてきます。また、結末で語り手が「なぜ私だけ『連れてっちゃうよ』と言われたのか」と疑問を残していることで、この体験が単なる偶然ではなく、自分自身の内面にも何かを問いかけていることを示しています。
全体を通して、怖さの中にどこか切なさや優しさが漂う、不思議で印象的なエピソードです。