今日は庭を通っちゃダメだよ
小学生の頃、学校帰りに毎日、近道として他人の家の庭を通って帰っていました。
その日も、いつものようにその家の庭を通ろうとしたところ、家の前に立っていたおばあちゃんに、「今日は庭を通っちゃダメだよ」と言われました。
いつもはニコニコしながら「こんにちは~」と挨拶してくれるおばあちゃんなのに、その日は無表情だったのが印象的でした。
不思議に思い、家に帰ってから母にその話をしました。
母も「なんだろうね」と、あまり気にしていない様子でした。
ところがその日以来、次の日も、そのまた次の日も、一週間ほど、おばあちゃんは庭を通らせてくれませんでした。
数日後、母が私に尋ねました。
「ねえ、今日もあのおばあちゃんの家の庭を通ろうとした?」
私は答えました。
「うん。でも、この前からずっと通っちゃダメって言われてるよ」
そのとき、母の顔色が見る見る青ざめていくのがわかりました。
「どうしたの?」と尋ねると、母は言いました。
「あの家のおばあちゃんね、あんたが最初に『庭を通っちゃダメ』って言われた頃に、家の中で自殺してたんだって。さっき、近所の人から『首を吊っているのを発見した』って電話があったの」
おばあちゃんは一人暮らしで、とても寂しい日々を送っていたそうです。
そして、遺書を残して首吊り自殺をしていたと聞きました。
なぜおばあちゃんは私に庭を通らせなかったのか、今でもわかりません。
だけど、母は「子どもに自分の姿を見せたくなかったのかもしれないね」と言っていました。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、「人の思いは、たとえ亡くなった後でも、誰かを守ろうとする優しさとして残ることがある」ということです。
普段は穏やかで優しかったおばあちゃんが、亡くなった後にもかかわらず、子どもに自分の亡骸を見せないように、静かに道をふさいでくれていたのかもしれないという展開から、死後の存在に対する恐怖よりも、そこに込められた思いやりに心を打たれるような余韻が残ります。
単に怖い話ではなく、「見えないけれど確かにあった優しさ」や、「人と人との関わりの温かさと切なさ」を感じさせてくれる話です。