悪ふざけが招いた本物の恐怖

音楽室

 

これは、大学生のときの話。

 

俺は軽音楽部にいたのだが、そこには霊感の強い女の先輩がいた。

 

本人はそれを嫌がっていたが、みんなは面白がって、幽霊の噂がある場所へ夜に連れて行き、「この辺どう?」とか聞いていた。

 

本当にヤバい場所では、先輩は頭を抱えてガタガタ震え出し、何も言わなくなる。

 

最初はあまり信じていなかった俺も、だんだん信じるようになっていった。

 

サークル内は先輩も後輩も仲が良く、ある先輩のアパートがたまり場になっていた。

 

俺も毎日のように入り浸っていたが、別に酒を飲んだり、おかしな薬をやるわけではなく、普通にテレビを見たりしているだけだった。

 

ある夜、いつものように何人かで集まっていたとき、俺の同級生が言い出した。

 

「部室にノートを忘れた。明日、小テストがあるから取りに行くのに付き合ってくれ」

 

「えー、やだよ」

 

俺がそう言ったのには理由がある。

 

部室のある建物は、夜9時半になると送電が止まる仕組みになっていて、まったく電気がつかない。

 

田舎のため周囲は真っ暗で、夏にはそこで肝試しをするほどだった。

 

でも、結局は行くことになり、二人でビビりながら真っ暗な階段を手探りで上り、なんとか部室のドアを開けた。

 

当然、中も真っ暗で、ノートがどこにあるのかもわからない。

 

「おい、早くしろよ」

 

「待ってくれよ、多分この辺に…あ、あった!」

 

「よし、帰ろうぜ」

 

その時だった。

 

部室の外の廊下には、古くなったアップライトピアノが置いてある。

 

そのピアノから、バーーーーーン!!!という不協和音が鳴り響いた。

 

「……!!!」

 

俺たちは無言で後ずさりし、壁際に張りついた。

 

「おい、聞いたか?」

 

「うん…」

 

「誰かいた?」

 

「いや…」

 

「あのさ」

 

「なんだよ…?」

 

「さっき、俺、あのピアノに触ったんだよね」

 

「だから…?」

 

「蓋、閉まってた」

 

「…!?」

 

次の瞬間、ピアノがまた鳴り出した。

 

今度は、聞き取れないほど小さな音でポロン…ポロン…ポロンと。

 

何かの曲のようだったが、ピアノの音程が狂っていて気持ち悪かった。

 

そして、確かに「クスクス」という小さな女の子の笑い声が聞こえた。

 

俺たちは声にならない叫びを上げながら階段を駆け下り、少し離れたところでお互いに今あったことを確認しながら、先輩の家に戻った。

 

「つ、ついに幽霊に遭ってしまったっす!」

 

先輩たちに今の出来事を話すと、「うん、うん」と聞いていたが、だんだん様子がおかしくなり、「ブッ…アハハハハ!」と突然、先輩の大野さんが笑い出した。※仮名

 

「…?」

 

きょとんとする俺たち。

 

なんのことはない。

 

俺らが出かけた後、大野さんが車で先回りして隠れ、脅かしただけだった。

 

さらに、俺らが部室から出た後、また先回りして俺らの帰りを待っていたのだ。

 

笑いものにされて気分は悪かったが、それよりも安堵感のほうが強かった。

 

「でも、手が込んでますよね~」

 

「だろ? ビビった?」

 

「ビビりましたよ~。大体、2回目とか、あんな暗い中よく曲なんか弾けましたよね」

 

「え?2回目?1回しか鳴らしてねえぞ?」

 

「え?だって笑い声とか…あれも大野さんでしょ?本当に女の子かと思いましたよ」

 

「はあ?何言ってんの?俺、隠れてたけど1回しか鳴らしてないし、笑い声とかも聞こえなかったぞ?」

 

「またまたぁ、なあ?聞こえたよな?」

 

「うん…」

 

「ビビりすぎて幻聴かよ」

 

また笑いものにされた。

 

そのとき、たまたま霊感の強い女の先輩が、同じサークルの先輩の彼氏と二人でやってきた。

 

入ってくるなり、誰にでもわかるほどボーっとして、うつろな目をしながら口走った。

 

「あれ~?大野さん、なんで女の子連れてきてるの?」

 

その場にいた全員が凍りついた…。

 

(終)

AIによる概要

この話が伝えたいことは、「人間のいたずらや作り話が、時に本物よりも怖く感じることがある」という点だと思います。

最初は先輩の悪ふざけで済んでいた話も、二度目のピアノの音や女の子の笑い声が加わることで、単なるいたずらの範疇を超えてしまいます。実際には誰も仕掛けていないはずの音や声が聞こえたことで、語り手たちは恐怖と混乱に飲み込まれてしまいました。

当初は「怖い話」として友人たちと面白がっていた出来事が、いつの間にか自分たちの身に起こってしまい、しかもその正体は最後まで完全には説明できません。さらに、オチで安心しかけた瞬間、霊感の強い先輩が何気なく放った一言が、再びすべてをひっくり返し、恐怖が現実だった可能性を示唆します。このラストの余韻が「もしかして、本当に……?」という不安を読者にも残し、現実と非現実の境界線が曖昧になる怖さを巧みに演出しています。

また、いたずらによって恐怖を煽るつもりが、実は誰にも説明できない「本物」の気配が潜んでいたかもしれない。そんな「油断」と「見えないものへの恐れ」を描いている点も印象的です。

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