幽霊との恋は命がけ
昔、俺の家には『幽霊』が出ていた。
そいつは、長い髪に青いワンピースを着た綺麗な女だった。
当時、俺は「まあ、家賃が安いから仕方ないか」と、あまり気にしていなかった。
そんな話を同僚にしたこともすっかり忘れた頃、ある休日にその同僚の家へ遊びに行った。
俺「おじゃましま~す」
同僚母「あら、友達?」
同僚「例の、幽霊が出る家に住んでる奴だよ。前に話したろ?」
母「ああ~、あの幽霊の出る家に住んでるって人ね」
すると、家の奥から弟が出てきた。
高校中退で無職、ガラが悪く、家族に暴力をふるう少年院帰りの弟だ。
弟「何してんだ?玄関で」
同僚「この人、例の幽霊が出る家の人」
弟「あ~、幽霊が出る家の」(疑わしげに俺を見る)
軽い会話をしてから同僚の部屋に行き、他愛のない話をして帰った。
ただ、帰り際に弟が妙なことを言った。
「幽霊さんによろしく。今度、一緒に来てって言って。美人らしいから紹介してよ」と。
家に帰った後、PCに向かいながら、なんとなく背後に気配を感じた。
俺はふと、「俺の同僚の弟がよろしくってさ。今度、家に遊びに来てって言ってたよ。もしよかったら、付き合ってくれとも言ってた。行くなら、他の家族には迷惑かけないでな」と、なんとなく声をかけてみた。
数日後、最近同僚がやけに眠そうにしているのに気づいた。
気になって理由を聞いてみると…。
「最近、毎晩夜中に弟が俺の部屋に飛び込んできて、ガタガタ震えながら『女が、女が…。頼む、兄貴、一緒にいてくれ』って大変なんだよ」と。
その数日後、同僚の弟は何もない場所で足を滑らせ、頭を打って亡くなった。
あの日から、あの女の幽霊は俺の家には出なくなった。
きっと、あの世で弟と付き合うことにしたんだろう。
今思うと、あの幽霊は他の家族の前には姿を見せなかったらしいし、弟の亡くなり方も家族に迷惑をかけなかった。
俺の言ったことを律儀に守ってくれたのかな?
そう時々思う。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、「見えない存在にも心があり、時には人の言葉を律儀に守ろうとする」という、不思議で少し切ない感情です。
幽霊という存在に対して、怖がるどころか気にせず共存していた語り手が、何気なく口にした言葉、「もしよかったら付き合ってくれ」といった軽い冗談が、思わぬ形で現実になってしまいます。
幽霊は他の家族には迷惑をかけず、語り手の頼み通りに「弟」とあの世で付き合うことを選んだのかもしれません。その結果、弟は命を落とすことになったが、幽霊は約束を守り、語り手の家にはもう現れなくなりました。そんな状況に、語り手は恐れや罪悪感よりも、むしろ「律儀に守ってくれたのかな?」という、どこか感謝にも似た感情を抱いています。
この話は、幽霊という存在がただ怖いだけではなく、人間の言葉や思いに応える優しさや誠実さを持っていること、そして、それが時に予期せぬ結末を引き起こすことがあるという、不可思議で哀しい物語なんだと思います。