夢が教えてくれた家族の秘密
小学生の頃、夢に“血でドロドロになった赤ちゃん”が出てきた。
僕が部屋の前に立っていると、赤ちゃんがヒタヒタと廊下を進んでくる。
なぜかその後ろには祖母が立っており、ニコニコと微笑んでいた。
僕は恐怖に包まれ、じわじわと近づいてくる赤ちゃんに向かって「来るな、来るなー!」と叫びながら押し返したが、赤ちゃんは大人のような物凄い力で逆に押し返してきた。
恐ろしくなって足で蹴ると吹き飛んだが、赤ちゃんは平気な様子で何度でも起き上がり、またじわじわと迫ってくる。
「助けて!!」
赤ちゃんの背後にいる祖母に懇願したが、いつの間にか祖母の顔が鬼のような形相になっていた。
「〇〇ちゃん、お兄ちゃんになんでそんな酷いことするんや」
祖母は意味不明なことを言っていた。
僕は泣き喚きながら自分の部屋に逃げ込み、内側から思い切り勢いをつけてドアを押した。
すると、ドアにぶつかった赤ちゃんはバンッと2メートルほど吹き飛び、そのまま階段の下へ落ちていった。
そして、水風船のように弾けた。
放射線状に広がった血や内臓を見て、僕は叫びながら飛び起きた。
夢でよかった……と、ほっと胸をなで下ろした。
けれど翌日、別の夢を見ていたはずなのに、家の玄関を開けるとまた階段の下に放射線状に広がった血肉が見え、驚いて目が覚めた。
さらにその翌日も、またシーンが振り出しに戻っていた。
赤ちゃんは生き返っていた。
同じ悪夢を何日も続けて見たため、怖くて眠れなくなり、母に相談した。
「あんた、水子って言葉を知ってるかい?」
「うん」
「おばあちゃんにはおるんよ。流産でもなく、堕ろしたんでもない。死産でもない。あんたを引きずり込ませたりしない。今日もその夢を見たら、夢の中でお母さんを呼びなさい」
そこまで言って、母は黙り込んだ。
その夜、やはりまた夢を見た。
「お母さん、助けて!」
そう叫ぶと、赤ちゃんは「ぐぅ……」と呻きながら、素早い何かに連れて行かれた。
祖母は目をつり上げて、「許さん……。覚えときや」と捨て台詞を吐き、パッと消えた。
それからというもの、その夢を見ることはなくなった。
ちなみに、その頃はまだ祖母は生きていて、元気に一緒に暮らしていた。
普段は笑顔の優しいおばあちゃんで、なぜ自分がそんな夢を見たのかは、今でもわからない。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、「人は知らず知らずのうちに、家族や先祖が抱えてきた過去や因縁の影響を受けているかもしれない」ということです。見た目には穏やかで優しい家族でも、その心の奥底や歴史の中には、語られてこなかった痛みや記憶が眠っていて、それがふとしたきっかけで、夢というかたちで浮かび上がることがあります。
夢の中で現れる血まみれの赤ちゃんは、ただの恐怖の象徴ではなく、自分とは直接関係のないはずの「存在しなかった命」や「封じられた記憶」が、無意識の領域で訴えかけてきたようにも感じられます。そして、それに対処する力を持っていたのは、自分ではなく「母」であったという点からも、家族のなかで受け継がれるものや、母親が抱えていた何かを守るように、あるいは断ち切るように夢が導いてくれたとも解釈できます。
つまりこの話は、「恐怖体験を通して、自分の知らない家族の歴史や、見えない感情の流れに触れた」という、ある意味では“心の奥を覗いてしまった経験”を描いているのです。恐ろしい夢でありながら、それは過去を知る扉でもあり、自分の存在や家族とのつながりを考えさせられるものとなっています。