幽霊が出る交番での勤務体験談 2/2
3件目は、時期がかなり過ぎて初夏。
交番のアスベストを何とかするということで、業者さんにお願いしたことがあった。
世間で話題になって早数年。
後回しもいいところだが、やっと予算が下りたとかで総務が動いてくれた。
僕としては、「アスベストより優先して取り除くもんがあるだろ・・・」と思っていたが。
本署で引継ぎを終えて交番に到着すると、ガチでムチな男たちが駐車場でタバコを吸っていた。
(来客者が来る場所でクダまいてんじゃねぇよ。一般の方が怖がるだろうが)と思ったが、僕の表情筋は鍛えられている。
至って爽やかな笑顔で、「あ、お世話なります。作業は順調ですか?」と訊いたところ、男たちの一人が「いやそれが・・・中にいるお巡りさんが鍵を開けてくれなくて・・・」と。
(いや、僕しかいない一人交番だから・・・)
昼間の奇襲だったのであまり怖くはなかったが、業者さんは総務から合鍵を預かっていると聞いていたので確認してみた。
すると、「鍵を使ったけれど、つっかえたようにドアが開かなかった」、「チェーンか何かだろうと思ったが、耳を澄ますと中で音がする」、「呼びかけても応答が無いので、とりあえず出て来くるのを待っていた」、との事だった。
その後、もう一度手持ちの鍵で開けると、ドアはすんなりと開き、当たり前のように2階の扉は開いていた。
そして、最後の4件目。
これが一番怖かった。
僕は耐え切れずに上司に直訴し、10ヶ月という半端な時期にも関わらず交代してもらった。
季節は夏の真っ只中。
その頃になると、僕は出来る限り交番に寄り付かず、書類整理の時と来所者がいる時だけで、後は寝ずに町を警らするようになっていた。
その日は運悪く書類が多く、交番でしこしことPCを叩いていた。
仮眠時間に突入しており、個人的には嫌な時間帯だったが、仮眠時間は唯一交番の中扉を閉めて書類に専念出来る時間なので、作業が進むのが唯一の救いだった。
おそらく早朝4時頃だろうか、外の駐車場で車が止まる音がした。
「来所者?この時間に?緊急か?応援を呼ぶより対応した方がいいな」
その辺りまで考え、鍵を開けようと椅子を立ち上がったところで、外の扉がガラガラと開いた。
「お~う、○○(僕)。仕事しとるか~?」
隣の交番に勤務する先輩の声だった。
仮眠中の交番管内は隣の係員が回ってくれるので、その際このように様子を見に来ることはままある。
(あぁ先輩か、良かった。書類整理を続けられる)
なんて思っていると、「○○~、開けろや~。電気点いてるから起きてるんやろが~」、と先輩が叫ぶ。
最近は寝る時も電気を点けっ放しだったが、そんなことを先輩が知るはずもない。
素直に開けようとしたが・・・
(あれ?先輩なら当然のようにするアレがない。先輩なら合鍵の場所を知っているはず・・・)
合鍵は、部外者には絶対分からない場所に隠すが、交番員が別件対応中の応援の為に、近くの交番員は合鍵の場所を知っている。
「○○。開けてくれやぁ」
外からの声。
とっさに、「答えちゃダメだ」と窓から駐車場を覗く。
車は、無い。
「開けろ~」
誰だ、こいつ・・・。
何だ、こいつ・・・。
開けたら、いかん。
ドアを挟んで聞こえる声。
振り返ると、さっきまで閉まっていた2階の扉が開いている。
中もヤバイ。
どうしよう・・・。
明かりが点いていることだけが唯一の救いだった。
いつの間にか声は無くなり、それでもドアの向こうにはハッキリと何者かの気配がある。
僕はトイレに引きこもって朝を待ち、半泣きで上司に直訴して交代した。
引継ぎの時の同僚は、僕の話を聞いて笑っていた。
さらにその半年後、僕は異動で町を移り、その後は知らない。
以上で僕の話は終わり。
三河の海沿いのある町で起こった本当の話。
(終)