その別荘に入らなくて本当に良かった

別荘

 

危うく霊に遭遇しそうになった話。

 

それは僕が大学生の時のこと、夏休みの前にゼミのメンバーがリゾート地でのバイトを見付けてきた。

 

リゾート地でのバイトといっても今は寂れてしまった避暑地で、「そこにある別荘の掃除をしてくれ」というものだった。

 

2泊3日で食事と宿付き。

 

僕らはゼミのメンバー5人(男3人、女2人)で行くことにした。

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Aさんには見えていた・・・

最寄駅に着いたら別荘の管理人のおじさんが来ていて、車で別荘へ連れて行ってくれた。

 

別荘は古いものの、結構大きな洋館で、庭にプールもある立派な所だった。

 

しかし、「すげぇ~すげぇ~」と騒ぐ僕らをよそに、ただ一人、メンバーのAさんだけが黙っている。

 

普段から大人しいタイプではあったけれど、来る途中は皆と同じように楽しくはしゃいでいたのに。

 

どうしたんだろうと思っていると、突然Aさんの携帯が鳴った。

 

電話に出るAさん。

 

通話が終わった後、僕らと管理人のおじさんに向かって言った。

 

「すみません。今ゼミの先生から電話があって、全員戻って来いって言われてしまいました。近々学会があって、ちょっと都合が悪くなってしまって・・・」

 

「ここまで来て、すみません。バイトをキャンセルさせて下さい

 

いきなりそんなことを言われても、と渋るおじさん。

 

「今日中に作業しなきゃいけないんだよ。誰か君たちの代理で来てもらえる友達はいないの?」

 

「すみません。それも難しいと思います」

 

きっぱりと言い切るAさん。

 

どういうことなんだ、と僕が訊こうとすると、横にいたBが・・・

 

「ああ、そうだ!俺ら、先生に作業を頼まれてたんだった!締切明日だから帰らなきゃ!」

 

「すみません。本当にすみません。私達これで帰ります。駅までは歩いて帰るので、送って頂かなくても構いませんので」

 

Aさんはもう一人の女の子の手をグイグイ引っ張って歩き始めた。

 

「んじゃ、すみません。俺らも帰ろうぜ!」

 

そうBが促すので、僕もお辞儀をして帰った。

 

ちらっと振り向くと、おじさんは別荘の方を見たまま突っ立っていた。

 

駅まで歩きながら、「ねえ、先生なんて言ってきたの?」とAさんに訊くと、「電車に乗ってから話す」と言って教えてくれない。

 

Bも黙って頷いていた。

 

電車に乗り、駅を2つほど過ぎた頃、やっとAさんが教えてくれた。

 

「ごめんね。先生からの電話なんて本当は嘘なんだ」

 

「ただ、あの別荘怖かったから、絶対に長居しない方が良いと思って・・・」

 

なんだそりゃ、と僕らが言うと、Bがボソッと言った。

 

「お前ら、見なかったのかよ。ほら、プールの水の下にあっただろ?底に壺とかマネキンの手足が重しを付けてバラバラに転がっていたのを」

 

「えっ?」

 

怪訝な声を出すAさん。

 

「あれ?Aさん、それで断ったんじゃないの?」

 

「違うよ。私が断ったのは、窓際のところに草刈鎌を持った女の人が居たからだよ・・・

 

Aさんによると、窓には注連縄(しめなわ)みたいなものが何重にも張ってあって、中に居た女の人は白目を向いたまま、その注連縄を一心不乱に鎌で切ろうとしていたらしい。

 

僕らはそれを聞いた瞬間、別荘に入らなくて本当に良かった、と心底思った。

 

(終)

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