奇妙な写真を撮った後に

山道 ドライブ

 

去年の夏、温泉地での出来事です。

 

私が所属する研究室の先輩と二人で、学会参加を兼ねた二泊三日の温泉旅行に行きました。

 

初日は学会を適当に切り上げ、温泉を堪能しました。

 

二日目、朝からブラブラと気の向くまま車を走らせ、途中寄った観光地として有名な滝で先輩が写真を撮ったところ、変なものが写り込んでいました。

 

画面中央、大きく写した滝のあちこちに『顔』のようなものが・・・。

 

お互いこんなものを撮ったのは初めてで、とても不快になり、すぐにデータを消去しました。

 

「そんなことはすぐ忘れよう」と、楽しく旅行を続けました。

 

途中、知り合った三人組の大学生の男の子たちとご飯を食べ、夜9時くらいに宿へ戻るため車で出発しました。

 

先輩は運転の為にお酒は飲みませんでしたが、私は少し酔ってしまい、助手席で寝てしまいました。

 

宿に着き、先輩に起こされるまでの二時間ほど熟睡してしまったようでした。

 

しかし、私を起こした先輩は、顔面蒼白でわんわん泣き始めました。

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以下、先輩の話

私が寝てしまった後、先輩は一人で車を運転していました。

 

ナビによると宿までもう少しというところで赤信号につかまったのをきっかけに、タバコを吸って休憩しました。

 

ほとんど山道のような道路で、他に走る車も無く、信号手前の道のド真ん中で停車してタバコを吸っていたそうです。

 

すると、サイドミラーに後方から歩いてくる妙な集団が映りました。

 

それらが近づいて来た時、はっきりと見えました。

 

十数人ほどの、銃や重そうな荷物を抱えた『軍人』でした。

 

どう考えても普通じゃない、逃げなきゃ、と本能的に察した先輩は、急いで発車しようとするも突然エンジンかかからなくなってしまいました。

 

集団はどんどん近づいて来るが、焦る先輩をよそにエンジンは全くかかってくれない。

 

やがて集団は車に接近し、ぐるりと周りを取り囲むと、中を覗き込んできました。

 

真っ暗闇の中、ヘッドライトに照らされて、彼らの顔立ちがはっきりと見えました。

 

日本人。

 

なんとなく今風の感じではない。

 

みんな泥にまみれ、血糊が付いている人や怪我人もいる。

 

先輩はもう気が気ではなく、目を瞑って念仏を唱えました。

 

しかし念仏は「ナミアムダブツ」までしか分からず、これじゃダメだと、ミラーに掛けていたお守り(安全運転のもの)を握り締め、「助けてください、助けてください・・・」と祈りました。

 

ふと、誰かが何か話しかけてきたのが聞こえました。

 

なんと言っているのか分からず、思わず目を開けると、運転席を覗き込む一人の男がもう一度言いました。

 

今度は、はっきりと聞こえました。

 

「おい女、何をしてるんだ。ふざけるなよ!」

 

まるで耳元で囁かれたかのような感覚でした。

 

先輩は叫び出したい衝動を堪え、もう一度エンジンをかけると、今度はしっかりと起動しました。

 

跳ねても轢いても構わないという勢いで急発進し、猛スピードで立ち去りました。

 

不思議なことに、フロントガラスの前にいた人達に衝突した感触は無かったとか。

 

その後、宿まで辿り着き、一息ついたところで私を起こしたそうです。

 

私は泣き喚く先輩から話を聞き、現実味が湧かなかったものの、先輩の様子から「これはただ事じゃないのかも知れない」と感じました。

 

車には何の異常も無く、一体何だったのかは不明です。

 

彼らは誰だったのか?

 

滝で撮った奇妙な写真と関係があるのか?

 

なぜ彼らは怒ったのか?

 

私には全く想像が付きません。

 

しかし先輩は、「あなたを起こさないように必死で我慢した・・・」と。

 

「泣いて叫んで助けを呼びたかった・・・」と。

 

「でも、あんなものを見たらきっと正気ではいられない。先輩として、あなたを巻き込むのだけはダメだと思った」と帰りの車内で話してくれました。

 

結局は謎だらで私は何も見ていませんが、先輩とは今でも仲良くさせてもらっています。

 

(終)

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