拾ったお金を使い切った次の日に

 

高校生の頃、道端でお金を拾った。

 

それも１０円とか１００円ではなく、５００円玉を５０枚ほども。

 

バッグや袋に入っていたわけではない。

 

自宅近くの交差点から川沿いの道を通り、公園に行き着くまで直線にして大体２ｋｍぐらいの範囲の道端の所々に散らばっていたのだ。

落し物を簡単に拾ってはいけない

貧乏学生だった俺にとって”臨時収入”といえるこのお金は、まさに渡りに船。

 

今なら何らかの事件性も考えて警察に連絡するのかも知れないが、当時の俺はそんなに生真面目な学生でもなかったので、ゲームを買ったり友達との交友資金に使ったりと大切に使わせてもらった。

 

その拾ったお金を使い切った次の日のこと。

 

朝目覚めると、体が異常にだるく感じた。

 

全身の関節が痛み、喉が痛くて呼吸するのも億劫だった。

 

しばらくすると、登校時間になっても起きて来ない息子を叩き起こそうと、鬼の形相をした母が部屋の扉を乱暴に開けた。

 

「いつまで寝てるの！早く学校行きなさい！！」

 

そう怒鳴った母だったが、俺の様子を見るや、キョトンとした顔をしてベッドに近づいてきた。

 

「なに、あんた。熱でもあるの？」

 

「･･････（うん）」

 

「早く言いなさいよ！悪くなったらどうするの！」

 

「･･････（大声出さないで、頭痛いの）」

 

「まったく、ちょっと待ってなさい。薬もってくるから」

 

「･･････（ありがとう）」

 

どうして母というのは子供が風邪を引くとあんなに優しくなるのかね？

 

普段からもう少しその優しさを出してくれれば良いのに･･･。

 

それはさておき、それから３日間は酷いものだった。

 

４０度近い高熱が続き、水でさえも口に入れたらすぐに戻してしまう。

 

病院に行っても原因は不明。

 

とりあえず一日入院したら、嘘のように熱が引いた。

 

医者も首を傾げていたが、翌日には退院の運びとなった。

 

迎えに来てくれたのは母。

 

「お昼ごはん何を食べたい？」と聞いてくる母に、「別に何でも良いよ」と答えようとしていると、対向車線からトラックが突っ込んできた。

 

母は肋骨３本、俺は右腕を解放骨折。

 

さらに右膝の前十字靱帯断裂と半月版損傷、右脛骨粉砕骨折で病院に逆戻り。

 

その入院中、母に癌が見つかったり、元気だった祖父が倒れたり、家が火事になったり、俺は彼女に振られたり･･･。

 

次々と不幸に見舞われた。

 

祖母が、「呪いじゃ！呪いじゃ！！」と慌て騒いでいた姿を今思い返すと少し笑える。

 

でも当時は俺も連続する不幸が怖くなっていて、一族の墓を任せていて昔から懇意にさせてもらっているお寺の住職さんに御祓いをしてもらうことになった。

 

住職さんは俺には何を言うでもなく、淡々と御祓いを済ませた。

 

ただ、帰り際に「○○君、何を拾ったの？」と、ぼそっと呟いた。

 

「えっ！？」と驚いて振り返ると、住職さんはにやっとして続けた。

 

「落し物を簡単に拾ってはいけないよ。昔から憑き物（厄）を落とすには、わざと何かを落とすんだ。それはお金だったり宝石だったり様々だがね。それらと一緒に憑き物を落とし、拾った者を身代わりにする。まぁ、変なのは憑いてないみたいだけど、厄を背負ってるみたいだからあと１年は注意しておきなさい」

 

住職さんはそう言って寺の奥に引っ込んでいった。

 

正直それまでは幽霊とか信じていなかったのだが、ちょっとだけ信じても良いのかなと思った体験だった。

 

そういえば昨日、職場の近くにダイヤの指輪が落ちていた。

 

誰でも分かりやすい所に置いておいたから落とし主が気づいていると良いけれど。

 

（終）