幼少期に抱えていた心の闇
大したオチもないが、良かったら聞いてほしい。
小学校入学前、いつも近所の公園で暗くなるまで遊んでいた。
友達とドッジボールをしたり、かくれんぼをしたり。
そして小さい頃の俺は色んな図鑑を読んだりして、幼稚園の先生からは「物知り博士」と呼ばれていた。
特に、昆虫や植物の世界では大人顔負けの知識を誇っていた。
・・・が、そんな俺でも敵わない相手がいた。
一人の世界に入り込んでいた?
2つくらい年上で、メガネを掛けていた男の子。
風貌はのび太みたいだけれど、とにかく博識で、物知り博士と呼ばれていた俺が知らないことまで昆虫のことならなんでも知っていた。
俺はその子のことを「ミノムシ先生」と呼んで、兄のよう慕っていた。
ミノムシの生態を教えてもらって俺が感動したからそう呼んでいた。
俺は仲良くしていた友達の集団を離れ、ミノムシ先生と二人で暗くなるまで公園で色んな話をするようになった。
そして俺が小学校に上がった頃、ミノムシ先生は遠くの町に引越した。
先日、出張のついでに実家へ戻り本棚を整理していたら、愛読していた昆虫図鑑が出てきた。
懐かしくなって時間を忘れて読みふけってしまった。
小さい頃の記憶が蘇ってくる。
そういえばミノムシ先生どうしてるかなぁ・・・。
もう結婚して子供もいたりするかなぁ・・・。
夕食時、母親に何気なく聞いてみた。
俺「そういえばミノムシ先生っていたよね、今頃どうしてるんだろう?」
母親が怪訝な顔をする。
俺「よく公園で遊んでたやん。どこに引越したんだっけ?案外俺の近くにいたりして」
母親の顔が曇る。
母「あんた、まだそんなこと言ってるん?そういえばこの話はしてなかったっけ?」
その後に母親の話を聞いて、俺は頭の中が真っ白になるくらい混乱した。
母親の話を要約すると次の通りだ。
俺は母親にミノムシ先生のことをいつも話していた。
ある時、遅くまで帰って来ない俺を心配して公園へ迎えに行った。
母親は俺がミノムシ先生と楽しく遊んでいるものと思っていた。
母親が公園まで迎えに行った時、俺は薄暗い木の下で楽しそうに独り言を呟いていた。
霊と話しでもしているような異様な光景だったらしい。
心配した母親は俺を病院に連れて行ったが、特に異常はなかった。(少し前に俺が高熱を出してたらしく脳の障害を疑ったらしい)
俺の頭の中にはしっかりミノムシ先生と遊んだ記憶はあるのに、実際はぽつんと公園で独り言を呟いていたなんて・・・。
母親が嘘をついているようには思えないし、言っていることは事実なんだと思う。
幼少時代の俺は、当時高校生の姉が持っていた文庫本を読みこなしていた。
昆虫以外にも新聞の世界情勢に興味を持ち、主要国の政治や経済のデータは大体頭に入っていた。
とにかく変な幼稚園児だった。
近所の人からは「東大に行ける」、「神童」と呼ばれていたりしたけれど、その後は平凡な私立大学を卒業し、今では普通のサラリーマン。
ちなみに霊感なんて全く無いし、友人からは「素晴らしい鈍感力の持ち主」だと言われている。
冷静に分析すると、当時は友達からイジメられていた俺は一人の世界に入り込むことが多かった。
もしかしたら辛い現実から逃げるため、目の前に架空の友達を作り出していたのかも知れない。
26歳になった現在まで、ミノムシ先生を実在の人物と記憶していたことが自分にとって衝撃的だった。
幼少期にこんな心の闇を抱えていたなんて・・・。
(終)