もし家を建て替えていなければ

家

 

建替えた持ち家と、一時住んだ借家での話。

 

子供の頃、あちこちガタのきた、古くて狭い木造家屋に住んでいた。

 

そんな時、隣の土地を買えたので、そのボロ家を潰してちょっと広い家を新築することになった。

 

しかし、さぁこれからという時に祖母が病気になり、半年後に亡くなった。

 

家の建替え費用から、数百万円が治療費や葬儀に消えた。

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家族に災難が起きませんように

当時の我が家の家計では、消えた費用をもう一度貯めるには何年かかるか分からない。

 

建替えを諦めるか悩んだ母は、伯母の紹介でとある占い師に相談した。

 

占い師いわく、「無理してでも建てなさい。急がないと家族に不幸が出るかもしれない」と。

 

それで両親はかなり覚悟のいる借金をして、家を新築することにした。

 

住家を壊すので、新居が完成するまでは借家住まいになる。

 

運良く、家から徒歩15分程の所に、二階建て一軒家の賃貸物件が見つかった。

 

家賃も安く、小鳥を飼っていたし、姉は受験を控えていたしで、両親は喜んでろくに下見もせずにその一軒家を借りてしまった。

 

借家は住宅密集地の真ん中にあり、二階の南窓に僅かに陽が当たるだけの薄暗い家。

 

一階が玄関・台所・洋間・風呂・洗面・トイレで、二階が洋間と和室。

 

玄関は鬼門になっている。

 

この家がとにかくジメジメしていて、暗くて臭い。

 

家中どこに居ても、下水管から上ってくるような生臭いニオイがする。

 

おまけに蝿やゴキブリ、蟻、蜘蛛、団子虫、百足、ダニやノミ・・・。

 

毎日狂ったように掃除しても、いたるところから涌き出る虫。

 

さらに南側隣家との隙間、猫の額ほどの庭にはしょっちゅう猫の死骸が落ちている。

 

※猫の額ほど

猫の額が狭いことから、場所や土地の面積が非常に狭いことを表す慣用句。

 

10日に一度くらいの凄い頻度で。

 

ただでさえ臭い家に、台所の小窓から死臭が入る。

 

家の周辺が野良猫のたまり場になっていて、夜は鳴き声がうるさくて眠れない。

 

飼っていた小鳥は鳴かなくなり、専業主婦の母は1ヵ月でノイローゼ気味になった。

 

一階の台所は一応ダイニングキッチンだったが誰もそこで食事する気にならず、二階の床にちゃぶ台を置いて、小鳥も含め家族全員なるべく二階で過ごした。

 

多少なりとも陽の差す二階の方が、不浄な空気が少ない気がしていた。

 

この家には何か悪いモノでも憑いているんじゃないか?、とみんな思っていた。

 

仏壇も二階に置いて、中の祖父母やご先祖に毎日手を合わせた。

 

「家族に災難が起きませんように。早く新しい家が建ちますように」と。

 

宗教に特別熱心な家ではなく、普段は盆と命日と法事くらいしか拝まなかったが、あの借家にいる間は家族全員が内でも外でも「神様仏様」と拝み倒した。

 

とにかく怖かった。

 

家の仏壇、近所の神社やお寺やお地蔵さんまで、拝めるものは拝み倒したおかげか、新しい家は予定より3ヶ月も早く完成した。

 

11月の爽やかな秋晴れの日、気味の悪い借家から無事に引っ越すことが出来た。

 

年が明けて平成7年1月17日、阪神淡路大震災が起こる。

 

我が家は震度7の激震地だった。

 

近所はみなぺちゃんこに倒壊し、うちを含め比較的新しい家だけが数軒残った。

 

何人も亡くなった。

 

もし新築していなければ、我が家でも犠牲が出ていたかもしれない。

 

そして、あの借家は全壊し、そこに新しく入っていた家族のうち2人が亡くなったと聞いた。

 

あくまで天災だし、ご不幸に遭われた方々はお気の毒に思う。

 

自分たちの幸運を、八百万の神様や仏様に感謝いたします。(合掌)

 

※八百万の神(やおよろずのかみ)

数多くの神、全ての神のこと。

 

(終)

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