神社の廃墟に住まう浮浪者

これは五年程前からの話です。

当時、私は浮浪者でした。

(2008年10月投稿)

 

東京の中央公園で縄張り争いに敗れて、

危うく殺されかけ、

 

追放された後、

各地を転々とし、

 

最後に近畿地方の、

とある山中の神社の廃墟に

住まうようになりました。

 

麓に下りては、何でも屋と称して

里の人の手伝いをし、

 

手間賃を頂いて食いつなぐ

身の上でした。

 

その生活の中で一番恐ろしかったのは、

人間です。

 

「何でも屋です。

何か御用はございませんか」

 

と言っただけで、

いきなり猟銃を向けられた事も

ございます。

 

「一度弾を込めたまま、

人間に向けてみたかったんだ。

ほらよ」

 

と、口止め料まがいの大金

(恐怖に慄いた代金は一万円でした)

を渡されましたね。

 

付近を走る暴走族に、

「お前に人権はねえ」

と追い回され、

 

棒切れで叩かれた挙句、

足が折れたこともございます。

 

その時は、よく手伝いに行く代わりに

野菜を分けて頂いてた農家の方が、

様子を見に来てくださり、

 

危うく歩けずに餓死する

ところを救われ、

 

病院にかかる代金まで

払って頂きました。

 

その農家の方からは、

様々な恩を受けました。

 

「手に職はあった方がいい。

うちじゃ雇ってやれないから、

せめて作物を育ててみて」

 

そのように仰り、

色々な苗や種を分けて頂きました。

 

荒れた境内の砂利を少し避けて、

硬い土を耕し、

 

近くの川から

下手くそな水路をひいて

水を引き入れ、

 

ちょっとした農園を造るに

至りました。

 

ある時、何度かに分けて訪れた

茶髪の廃墟探検の人たちに、

 

この農園は大量の除草剤を撒かれて、

全滅させられました。

 

私はこういう団体が来る度、

暴走族の一件を思い出して

隠れるようにしていたのですが、

 

この時ほど、

角材でも持って殺してやりたい

と思った事はございません。

 

そこでの生活は、

 

どなたかから恩を受け、 

それをどなたかに奪われる、

 

ことの繰り返しでした。

 

こうした生活をしていると、

不思議と心が澄んできます。

 

所詮人間は悪徳の持ち主ばかりだ、

と悟るのです。

 

そして、徳の高く優しい人たちに

憧れるようになります。

 

そういう風になってくると、

別に幽霊を見ても、

必要以上に恐くなくなります。

 

実はこの神社、社務所に

本当に幽霊が出たんです。

 

髪がぼさぼさで、

白着物に朱袴の女性でした。

 

生活し始めの頃に気づき、

以来怯えて社務所には近づかず、

物置小屋で暮らしておりました。

 

しかし、悟ってしまった頃から、

頻繁に社務所に出入りするようになり、

 

大工の親方とも知り合い、

古くなった工具を分けてもらった四年前。

 

仕事を覚えてみるついでに、

社務所の修理を始めました。

 

『出て行けっ!!祟り殺すぞ』

って具合に睨まれましたよ。

 

何度か、ちびりました。

 

でもね、

修理をして雑巾掛けをしていくうちに、

だんだん付き合い方を覚えました。

 

まず、必要以上にうるさくしない。

 

次に、神さんじゃなくて、

その人に挨拶をしてから入り、

出る時も挨拶して出る。

 

社務所が綺麗になる頃には、

幽霊のお嬢さんが出てきても、

穏やかな表情をするようになりました。

 

たまにさらさら音が聞こえたような

聞こえてないような時は、

決まって髪を櫛擦ってる。

 

二年前、前に私の足を折った暴走族が、

また境内へと上がって来ましてね、

 

私、逃げ切れずに捕まって、

袋叩きにされました。

 

頭も殴られて、

ぐわんぐわんいってましてね、

 

足なんか痙攣してて、

立ち上がって逃げようにもすぐ転ぶ。

 

深夜の話なんで、

昼間よりもっと助けも望めず。

 

こりゃあ巫女さんのお仲間になるな、

と思いました。

 

若者達はへらへらと笑っているし、

私がもう命の限界に近いなんて

理解もしてないようでした。

 

すると驚いた事に、

境内を駆け上がってくる足音が

するじゃないですか。

 

暴走族たちも、

私を殺そうとする手を休めて

そちらを見ました。

 

すると、麓の危ない猟銃持ちの

おじさんがやって来て、

 

いきなり銃を暴走族たちに向けるじゃ

ありませんか。

 

しかも発砲したんですよ。

わざと外したようですがね。

 

暴走族が慌てて逃げ出したのを見て、

私、意識失いました。

 

病院で目を覚ました後、

見舞いにやって来たおじさん。

 

聞けば、

巫女の幽霊に夢の中で脅かされ、

 

飛び起きたら目の前に血走った目をした

巫女の幽霊がいた、

 

なんて肝の縮まる思いをしたそうで。

 

幽霊撃つために取った銃も、

銃床で殴りつけても、

 

そりゃ素通りだったそうですよ。

 

あまりの恐さに逃げ出したら、

追っ掛けられて神社まで追いたてられたと。

 

だから私ね、

「実はあの廃墟にゃ

巫女の幽霊が出るんだよ」

って切り出して、

 

社務所の修理と、

巫女の幽霊が恐くなくなったとこまで

話してやったんです。

 

そしたらおじさん、

「そりゃあんた、

幽霊と内縁の夫婦になってるよ」

と真顔で。

 

退院して真っ先にお礼しましたよ。

 

以来ちょっと生活苦しくても、

巫女さんのために一膳のご飯用意してね。

 

嫁の飯も用意出来ないんじゃ、

男廃りますし。

 

多分あれはただの夢ですが、

巫女さんと何度も一晩中むさぼりあった。

 

祝言もあげましたよ。

 

神主もいない神社ですが、

まあ神前結婚の気分てね。

 

一年前。

この神社の廃墟を含む山の所有者って方が

やってらっしゃいましてね。

 

元々はこの神社の神主の一族だって

話してらっしゃいました。

 

この神社、別に霊験あらたかでもないし、

歴史的に由緒あるわけでもなし。

 

終戦後の神道の混乱期に神主不在となって以来、

荒れ放題だったとか。

 

ところが、みすぼらしいのは同じでも、

神社がすっかり生気溢れてることに

感激したって泣き出しましてね。

 

私に、神社のある山と、

麓の農地ををくださったんです。

 

どうせ二束三文の土地なら、

活用してくれる人に持ってて欲しいってね。

 

農地は、よくしてくれた農家の方に

安く貸し出し、

私は今東京に出稼ぎに出てます。

 

なかなか家には戻れんので、

嫁が夢に出てくることが多いですが。

 

いつかこっちもくたばって、

その後ずっと一緒にいれるんだから、

我慢してもらわないと。

 

今は金を貯めて、

私らが死後暮らすあの神社を

もっとちゃんと修繕し、

 

もう一度ちゃんと、

神社として神主を迎えられる状態に

しないといけない。

 

(終)

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