孤独だった学生時代の話 2/2

御守り

前回までの話はこちら

高校も、俺と彼女は同じところに行った。

 

彼女との電車通学は本当に楽しかった。

 

彼女のおかげで、俺は少しずつだが自分を取り戻せている気がした。

 

彼女がお母さんと住んでいるのは狭いアパートだったので、勉強もゲームもキスも、だだっ広い俺の祖父の家でしていた。

 

ただ、毎週金曜日は彼女の家の宗教の集まりがあり、会えなかった。

 

彼女は昔から、行きたくないけど行かないとお母さんに怒られる、と言っていた。

 

高校3年生になったある日の帰り道、彼女が真っ青な顔をして「大事な相談がある」と言った。

 

俺たちは駅前の喫茶店に寄った。

 

「私、教団を辞めたいのに・・・大変なことになっちゃった・・・」

 

彼女はゆっくりと、少し震えながら話し始めた。

 

彼女の話によると、教祖の世話係に選ばれてしまったらしい。

 

教団では名誉ある役目との事だが、要は教祖が信者の中から気に入った女性を選抜し、18歳の誕生日に本部に出家させ、1ヵ月間に渡って厳しいと言われている修行をさせて身を清め、その後は教祖のそばで身の回りの世話をする役目だと言う。

 

聖人の世話係は、穢れのない女性に限られるらしい。

 

穢れのない女性とは、男性経験のない女性との事だった。

 

それを聞いても実感が湧かず、俺は少しだけ笑った。

 

「そんなこと、ほんとに?それに、●●(彼女)は教団が言うところの穢れのある女性なんじゃない?」

 

俺と彼女はついこの間、自然な流れで初めて一線を越えてしまってもいた。

 

彼女は少し赤くなったが、真剣な顔で言った。

 

「笑い事じゃないんだって。ほんとなんだよ。お母さんも本気なんだよ。○○君としたなんて分かったら、すっごい怒られるよ。どうしたらいい?」

 

「断れないの?」

 

「私・・・絶対やだっ!て言ったんだけど、ダメだって・・・。すごいお金も貰えるって・・・。出家したら会えなくなるんだよ。来月、本部から迎えが来るんだって・・・。私はいつか○○君のお嫁さんにしてほしいのに・・・」

 

泣きそうな声で言った彼女の言葉にドキドキとしてきて、「そんなところに●●を行かせるわけないだろ。俺は●●の為ならどんなことでもやれるんだよ。何人で迎えに来るか知らないけど、絶対に守ってやる」と俺も本気で言った。

 

彼女は嬉しそうに微笑み、頷いて俺の手を握った。

 

どうすればいいか悩んだ末、俺は祖父に相談することにした。

 

俺は祖父に、彼女との馴れ初めから初体験、彼女の生い立ちまで包み隠さず話し、新興宗教の事も、分かっている事の全てを話した。

 

祖父は口をへの字に曲げ、真剣に聞いてくれた。そして・・・

 

「じいちゃんはいつかお前も両親の後を追っていなくなってしまうんじゃないかと怖かった。今、お前が生きているのは全て彼女のお陰だ。じいちゃんが全身全霊をかけて彼女のお母さんを説得してやる。決裂したら彼女をかっさらってでもここに住まわせてやる。そんで、どんな宗教か知らんが誰も家には入れん!」と言ってくれた。

 

次の日、彼女に会って祖父の話をすぐに伝えた。

 

彼女は目に涙を浮かべながら聞いてくれた。

 

彼女のお母さんと会う日、祖父はビシッとスーツで決め、俺にも制服を着ろと言った。

 

いつになく祖父が若々しく頼もしく見えた。

 

彼女の住むアパートの呼鈴を押すと、彼女が出てきて部屋に通された。

 

中に入った途端、酷い耳鳴りがして、目の前に透明な幕が掛かったようになり、ふわふわと夢の中で歩いているような気がした。

 

部屋はよく整理されていて清潔だった。

 

テーブルには彼女のお母さんが不機嫌そうに座っていた。

 

祖父はお母さんの正面に腰を下ろした。

 

祖父の隣に俺は座った。

 

さらに耳鳴りが酷くなった。

 

俺は祖父を見た。

 

愕然とした。

 

祖父だと思っていたら、お父さんが座っていた。

 

お父さんの向こう隣には知らない男の人がいて、彼女を見ていた。

 

お父さんは俺を見て、微笑んで言った。

 

「今まで良く頑張ったな。お前の幸せを母さんと応援している。安心しろ」

 

俺の目から涙が溢れそうになり、胸が一杯になって目の前が真っ白になった。

 

一瞬、笑顔のお母さんが手を振っているのが見えた気がした。

 

どの位の時間が経ったのか分からなかったが、急に夢から覚めたように頭がはっきりとした。

 

透明な膜が掛かったような感覚は無くなっていた。

 

耳鳴りもしていない。

 

いつのまにか話し合いは終わっていた。

 

隣を見ると、やっぱり祖父が一人で座っていた。

 

祖父は、「良かったな。分かってもらえたみたいだ。帰ろう」と言って席を立った。

 

彼女と彼女のお母さんは、顔を両手で覆って泣いているようだった。

 

俺は挨拶をして、慌てて祖父に付いていった。

 

何がなんだか分からなかった。

 

外に出ると祖父は、「何か温かい不思議なのが俺たちの他に二人くらい来ていたな」と言った。

 

彼女からすぐに携帯に連絡があった。

 

「私のお父さんが来てくれた。お母さんを叱って、私に○○君と幸せになれって言ってくれた。昨日の夜から私、お父さんに貰ったあのお守りに祈ってたんだ」

 

彼女は興奮して言った。

 

その後、彼女と彼女のお母さんは新興宗教を辞めた。

 

だが、かなり揉めてしまい、祖父が知人の弁護士に相談し、しばらく俺の家に避難させた。

 

教団と思われる嫌がらせもあったが、俺は家族が増えたようで楽しかった。

 

祖父は前の言葉通り、教団関係者を誰も敷地内に入れなかった。

 

数年後、その教団の教祖が強制わいせつ罪で摘発された。

 

やはりあの時に行かせなくて良かったと俺は心底思い、妻に話した。

 

そして、「でも怖いな。こんな悪魔みたいな奴を信じていたこともあったんだろ?」と聞いた。

 

「それはお母さん。私は子供の頃からあなたしか信じてなかったよ」と、妻は幼い息子を胸に抱いてあやしながら幸せそうに笑った。

 

妻の向こうの居間で、ステテコに腹巻姿の祖父が寝転んでテレビを見ているのが見えた。

 

キッチンのオーブンからは、妻のおばあさんレシピのクッキーが焼けてきた良い匂いがした。

 

幸せな今だからかも知れませんが、もしもあの時、祖父に相談せずに教団の人達が彼女を迎えに来たとしたら・・・。

 

自分が何をしようとしていたのかを考えると、洒落にならないくらい怖くなります。

 

(終)

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One Response to “孤独だった学生時代の話 2/2”

  1. 匿名 より:

    タイトルからして、黒歴史の垂れ流しかなと思ったら、ええ話じゃないか。末永く爆発しろ(良い意味で

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