スクラムで感じた亡き先輩の力

ラグビーボール

 

僕は大学に入学してすぐにラグビー部に入った。

 

そして入部するなり、一人の4年生の先輩に「お前は入学時の俺にそっくりだ」と言われた。

 

その安藤先輩は僕と同じポジションで、それから2年間、麻雀をしたり、ご飯を食べに行ったりと、言葉では言い尽くせないほどお世話になった。(安藤先輩が留年した為に2年間一緒だった)※仮名

 

安藤先輩が卒業し、2年間みっちりと鍛えられた僕は、他の先輩を差し置いてレギュラーになることができた。

 

しかし、その年の夏合宿の最中、すごく尊敬していた安藤先輩が亡くなったと連絡が入った。

 

バイクでの単独事故だった。

 

お通夜と告別式は合宿地から300キロほど離れた先輩の田舎だったが、合宿中ということもあり、キャプテンだけが参列する方向で部内では話が進んだ。

 

ただ、僕は「もし葬式に出れないのなら今ここで部活を辞める」と駄々をこね、結局はキャプテンと一緒にお通夜に参列することができた。

 

僕が一番可愛がってもらっていたことをみんな知っていたので、無理を言っても反論する人はいなかった。

 

初めて会った安藤先輩のご両親は僕のことを亡くなった先輩から聞いていたらしく、「ありがとう、ありがとう」と泣きながら出迎えてくれた。

 

僕も涙が溢れ出てしまい、せっかく用意してもらった先輩が大好物だった寿司屋の寿司を味わうことはできなかった。

 

その秋のリーグ戦では、みんな心の中に「亡くなった先輩の分まで」という気持があった為か、チーム初の決勝進出を果たすことができた。

 

決勝の相手は3年連続優勝している強豪チームで、僕らのチームは練習試合も含めて4年間、そのチームに勝ったことが一度もなかった。

 

でも、その決勝はいつもと違った。

 

普段なら押されることはあっても絶対に押すことのできなかったスクラムはこちらが常に押し続け、楕円のボールのバウンドは常に僕たちに有利に転がった。

 

そして試合が終る少し前、キャプテンが言った。

 

「このグラウンドに安藤さんがいる」

 

僕も、みんなも、それはなんとなく気づいていた。

 

密集の中でも後ろから誰かが支えてくれている感触が確かにあった。

 

そして僕たちは3点差で試合に勝ち、初優勝することができた。

 

試合後、遠い所を応援に来てくれていた安藤先輩のご両親に優勝の報告をしに行くと、「少し前に息子がこのグラウンドで試合をしていて、その試合に勝つ夢を見た。だから今日はこのグラウンドを見た瞬間に、君たちが優勝することを確信していた」と、おっしゃった。

 

それに、「このグラウンドには初めて来たが、息子が夢の中で試合をしていたグラウンドは、確かにここだった」とも言っていた。

 

次の日に全員でお墓参りをして、安藤先輩のおかげで勝つことができましたと報告をした。

 

今でも当時の部員が集まる機会があると、「あの時の試合には絶対に安藤さんがいた。16人対15人で勝つんじゃセコイけど、それも安藤さんらしいよな」、なんて話題でいつも盛り上がり、そして未だにしんみりしている。

 

(終)

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