林道の先で出会った不思議なおっさん
自動車運転免許を取って以来、もう6年近く愛車のジムニーを転がしては各地に旅へ出たり、林道やクロスカントリーを楽しんでおります。
※クロスカントリー
舗装されていない道路や、道として整地されていない砂地や岩場などを車で走ること。
以前、近くの山に「結構難所の多い林道がある」と仲間内から聞き、練習がてら何度かその山に入っては遊んでいました。
その林道、途中まではノーマルの四駆車でも上がれるような場所なのですが、ある場所を境に急に悪路になります。
もちろんその先の悪路で遊んでいるのですが、たまたま夜にふらっとコーヒーでも飲もうかと、その山へ入りました。
あ、人じゃない・・・
いつも通り愛車は快調で、グイグイと急坂を登っていきます。
実は、その道の境目の端に古い鳥居があるのですが、管理もされておらず苔むしっており、良い気持ちではなかったのであまり近付くのは控えていました。
鳥居を過ぎて適度な悪路を楽しんだ後、開けた場所で焚き火をしながら、お気に入りの豆を挽いて一服つけていました。
肌寒い晩秋の夜、焚火の火を眺めながらまったりしていると、いきなり背後から声をかけられました。
その時は本当にびっくりしたのですが、よく見ると”普通のおっさん”という感じで、もしかしたら管理者かな?と思ったのです。
ですが、そのおっさんが一言、「その馬は主(ぬし)のか?」と聞いてきました。
この時点でもう、『あ、人じゃない・・・』と直感していました。
しかし、答えない訳にもいかないので・・・。
私「ええ、私のです」
お「近頃よくこの辺りで見かけるが何をしとる?」
私「この馬で山を走るのが好きなんです」
お「そうか、強そうな馬じゃな」
私「丈夫な馬ですよ。山好きの愛馬です」
お「ほう、山が好きか。主もか?」
私「好きですよ。里を離れ、山で飲む茶が旨いんですよ」
その時に、カップに注いでいたコーヒーを差し出してみました。
すると、御仁はカップを手に取り、「こりゃ変わった茶だな。なんの茶だ?」と。
私は、「国じゃあまり育たない豆から入れた茶です。舶来物です」と答えました。
その御仁はえらくコーヒーの味を気に入ったようで、「もう一杯くれ」と言い出しました。
豆を挽き、湯を注いで愛用のプレスで淹れました。
その作業をじーっと見ていたその御仁は、「変わった入れ方をすんじゃなぁ」と不思議そうに眺めていました。
そして、予備のシェラカップに注ぎ渡すと、「やはり旨い。これは欲しい」と。
私は、「もうあまり豆がない。また来た時にでも・・・」と答えると、その御仁は「そうか。確かにこの冬は寒くなりそうじゃ。これを飲めば暖まるのぅ。また頂くとしよう」と言い、林道の方へ消えていきました。
私のシェラカップを持ったままで。
翌週、友人がその山で練習したいと言うので、2台で林道へ入り、いつも横目に見る鳥居で一度止め、しばらく眺めてから奥へ。
一通り遊んで日も暮れてきたので、最後にコーヒーを沸かし、ポットに入れて鳥居前で一度停車。
持って来ていた紙コップ一杯にコーヒーを注ぎ、鳥居の傍に置いておきました。
それから数ヶ月は仕事が忙しく、なかなか走りに行けなかったのですが、仕事が終わってから気晴らしにその林道へ向かいました。
もちろん、いつものコーヒーセットを持参して。
とりあえず鳥居はスルーして、いつもの休憩ポイントで数時間の焚き火をし、コーヒーを楽しんだ後に鳥居前で停車し、熱々のコーヒーをまた紙コップに注いで置いておきました。
その時にふと、鳥居の脇を見ると大量の栗がありました。
一礼をし、栗を頂いて下山しました。
その栗はとても甘く、栗ご飯にして美味しく頂きました。
翌日は休みだったので、またその林道へ出向き、包んでおいた栗ご飯とコーヒーを置いて下山しました。
ちなみに、前日に注いだ紙コップの中身は空っぽでした。
その時、私のシェラカップも置いてありました。
高価な物ではなかったので、一筆『お使いください』とメモ書きを残し、それにもコーヒーを注いで置きました。
雪が降ればスノーアタックと称してまた走りに行くので、豆をたくさん買っておかないと・・・。
話にオチはないですが、怖いというよりは不思議な体験でした。
また、鳥居の奥はちょっと開けた場所があったのですが、そこには小さな祠がありました。
苔むしってボロボロでしたが。
(終)