ウサギ穴 1/2

小学校の頃、

僕の通っていた学校の裏には

小さな山があって、

みんなからは普通に、

裏山と呼ばれていた。

 

小学校は三階建てだったけれど、

裏山は、その小学校の、

二倍程度の高さしか無かった。

 

学校側から裏山を上って反対側に降りると、

細い県道に出る。

 

学校の規則で、休み時間は裏山には

上っちゃいけなかった。

 

それでも僕は、友達と一緒によく

裏山に上った。

 

大体、昼休みに。

 

まばらに木が生えてるだけの

何も無い山だったけど、

子どもにとっては十分な、

遊び場だった。

 

それでよく先生に叱られた。

 

「ごめんなさい。

もう裏山には行きません」

 

って、100回は言った気がする。

 

今からするのは、

そんな裏山の話だ。

 

さっきは、まばらに生えた木以外は

何も無い山だって言ったけど、

実はあった。

 

一つ、子供心をくすぐる様なモノが。

僕と友達数人が見つけたのだ。

 

僕らはそれを『ウサギ穴』と名付けた。

 

三階の廊下の窓から見える、

裏山の斜面に穴はあった。

 

勢いをつけて斜面を駆け降りる、

と言う遊びをやっていた時のことだ。

 

友達の一人が、

何かに躓いて転がった。

 

だいぶ転がった。

 

膝から血が出てたけど、

田舎だったから、

そんくらい唾付けときゃ直る

ということで、

僕らは別のことに

興味をひかれていた。

 

友達は穴に躓いたのだった。

 

斜面の一部が草ごとえぐれていて、

おそらく友達が踏み抜いたのだろう、

その部分から穴が露出していた。

 

縦穴じゃなくて横穴。

 

今までは、草と土に隠れて、

見えなかったらしい。

 

穴は小さくて、

人は絶対入れない。

 

でもウサギなら入れそうだ、

と言うことで、

決まった名前が『ウサギ穴』。

 

屈みこんで覗いてみると、

中は真っ暗だった。

 

まっすぐ伸びている様に見えたけど、

いかんせん暗過ぎてよくわからなかった。

 

その穴は、それからしばらくの間、

好奇心旺盛な子供たちの

心を捉えて離さなかった。

 

まず、「何がこの中にいるのか」

という話になった。

 

モグラという意見と、

ヘビだという意見と、

やっぱりウサギだ、

という意見に分かれた。

 

僕はウサギ派だった。

 

山に住むじじいから、

ウサギはこんな巣を掘る

と聞かされていたから。

 

「ウサギの巣なら、出口は一つじゃない。

もっとあるはずだ」

 

と、僕が言ったことがきっかけで、

僕らは裏山を、

他の穴は無いかと探し始めた。

 

その日は、探しているうちに

昼休みが終わってしまい、

結局、見つけることは出来なかった。

 

別の穴が見つかったのは、

それから三日くらい後のことだった。

 

ちょうど学校とは反対の、

県道側の斜面に穴はあった。

 

同じような穴だった。

見つけたのは僕だった。

 

かくれんぼをしていて、

偶然見つけたのだ。

 

「穴ー。あなー!」と叫ぶと、

みんなが集まって来た。

 

「ほら見ろ、やっぱりウサギだった」

 

「いや、へびだ。違うモグラだ」

 

そんな不毛な言い争いの、

後だった。

 

誰が言ったのかは忘れた。

 

僕だったのかもしれない。

まあ、とにかく誰かが言った。

 

「じゃあさ。この穴によ、

ウサギ入れてみん?」

 

よし、やってみようぜ。

面白いかは二の次だぜ。

何てたって僕ら小学生だぜ。

 

でも今は少し後悔している。

 

僕の通っていた学校では、

ウサギを飼育していた。

 

そして、学年には一人ずつ

(※クラスは無いよ。

全校生徒八十人くらいだったから)

飼育委員というのがいて、

昼休みになると、

ウサギに餌をやったりするのだ。

 

そして何と、その時の五年生の飼育委員が、

僕だったのだ。

 

決行されたのは、次の日だった。

 

昼休み、僕は『チャーボー』と

名札の貼られた檻を開けて、

茶色い毛がボーボーの可愛いウサギを、

一匹抱えて『ウサギ穴』へと向かった。

 

到着すると、もう友達の一人は

穴で待機していて、

反対の県道側の穴の方にも、

数人スタンバっているらしい。

 

友達が運動場の倉庫から持ってきた、

五十メートルの巻き尺の紐を、

チャーボーの身体に結んだ。

 

命綱のつもりだ。

 

「チャーボー。ほれ、いけ」

 

穴の中に、

チャーボーの頭を突っ込む。

 

チャーボーは嫌がって、

足をパタパタさせた。

 

無理やり押し込む。

 

それほどきつくはなさそうだけど、

無理しないと、

方向転換は出来ないだろうな。

 

「はよういけ。

帰ってきたら餌やるから」

 

棒で尻をつつくと、

チャーボーは嫌々そうに、

穴の奥へと進んで行った。

 

途中で途切れている、

だなんて考えはなかった。

 

二つの穴は当然つながっている、

ものだと思っていたのだ。

 

「よんメートル」

 

隣で友達が、

チャーボーが進む動きに合わせて、

巻き尺を引っ張り出しながら、

一メートル毎に一々報告する。

 

「はちメートル」

 

当時は小さな山だったので、

学校側の穴から県道側の穴まで、

五十メートルも無いだろうと思っていた。

 

今考えると、もう少し距離は

あっただろうけど。

 

僕がふと疑問を覚えたのは、

十メートルを過ぎてからだった。

 

(続く)ウサギ穴 2/2へ

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