3人の記憶が一致しなかった出来事 2/2

廃倉庫

 

何かあったらすぐ田中の方へ逃げられるよう、

俺は腰を浮かして恐怖に耐えた。

 

「お~い、線香があったぞ~」

 

暗がりにぼんやり見えていた伊藤が、

 

突然に姿を消したかと思うと、

間延びした声をあげた。

 

「蚊取り線香だけどな。

最近誰かが入り込んだのかなあ?」

 

田中は、

恐怖よりも性欲が勝っているらしい。

 

信じられない想像力だった。

 

「おいおい、

コンドーさんの袋があるぞ~」

 

俺は自らの負けを確信した。

 

「あいつ、○○中学だよな。

 

うちの高校にあそこ出身の

可愛い子っていたっけか?」

 

田中の質問に答える余裕はなかった。

 

「・・・そうだよなあ。

 

可愛い子は○○女子に

行っちゃうんだよな~」

 

俺は田中の姿を確認するので

精一杯だった。

 

「でもD組の○○、

あいつ確か○○中学だろ。

 

結構良くねえ?」

 

ライターを点火するたび、

あいつの姿が浮かび上がる。

 

「体操着の胸のあたりとかな」

 

田中の話しぶりに、

ちょっと違和感を覚えた。

 

「おい!

おまえ誰と喋ってんの?」

 

・・・・・・

 

「うあああああああああ!!」

 

一瞬の沈黙があり、

田中が喚いた。

 

土嚢の陰から飛び出すと、

 

こちらを無視して、

いきなり扉に体当たり。

 

建付けが悪かったのか、

その引き戸は簡単に外れた。

 

街灯が部屋の中を照らし、

俺はその奥にちらっと視線を送った。

 

(あれ!あいつ鈴木じゃないか?)

 

躊躇する間もなく、

俺は駆け出す田中の後を追った。

 

「ちょっと待てって!

あれ、鈴木だよ!」

 

コンビニの前で田中に追いすがり、

やっと息をついた。

 

「騙されたんだよ。

 

伊藤と鈴木がグルになって、

俺らを脅かしたんだって」

 

「鈴木?鈴木って誰?」

 

きょとんとした顔をする田中。

 

「はあ?」

 

二人の会話はまったく

かみ合わなかった。

 

「じゃあ、さっきあそこで

誰と話してたんだよ!」

 

「暗くて分かんなかったけど、

てっきりおまえだと思ってた。

 

顔は見えなかったけど、

俺の後ろに確かに誰かがいた」

 

「それが鈴木なんだって!」

 

そう言いながら、

 

こんな悪戯や悪ふざけするような奴には

見えんかったなと思った。

 

伊藤の部屋では正面に座り、

一番熱心に俺の話に耳を傾けていた。

 

ほとんど喋らなかったが、

 

時折軽く相槌を打ったりして、

好感すら持てた。

 

鈴木なんて奴は訪ねて来なかった、

と田中は言い張る。

 

とにかく伊藤に聞くしかないな、

ということで、

 

俺らは足早に伊藤宅へ向かった。

 

チャイムを鳴らすと、

伊藤が不安げな表情で出てきた。

 

「おまえら・・・

どこに行ってたんだよ・・・」

 

俺と田中は唖然として、

顔を見合わせた。

 

「だから、飯食った後、

 

ソファに座って三人で

野球中継見てたよな?」

 

ここまでは皆同じだった。

 

「俺は昨日遅かったから、

野球見ながら寝ちゃったんだよ」

 

と伊藤は言う。

 

「おまえが眠そうにしてたから、

俺が怪談話を始めたんだよ」

 

と俺。

 

田中も同意する。

 

「話してる最中に、

 

鈴木っていう中学の同級生が

部屋に入って来たろ?」

 

俺だけが確認している。

 

「俺、鈴木って友達いないし、

そいつが勝手に家へ上がり込んだのか?」

 

言葉に詰まると、

田中が後を引き継いだ。

 

「あの川べりの小屋に案内したのは

覚えてるだろ?

 

おまえが言い出したんだ」

 

自転車で行こうと言う俺を無視して、

伊藤は一人先に歩き出した。

 

防災倉庫に着くまで、

ずっと無言だった。

 

到着するなり、

 

予め決められていたように、

肝試しの設定を滔々と喋りだした。

 

まさか、

夢遊病者の出来ることじゃない。

 

伊藤は頭を抱え込んだ。

 

「だ・か・ら~、

もう完全に寝てたんだよ」

 

怯えているのかも知れなかった。

 

「じゃあ、あの小屋のことも

知らないのか?」

 

絶句した田中に代わって、

俺が訊ねる。

 

「知ってる。

 

あそこは中学の時の

通学路だった」

 

伊藤は真っ青な顔になって、

震えているように見えた。

 

「ずっと前に、

 

いじめにあってた奴が、

あそこで首吊り自殺したらしい」

 

全員が黙り込んでしまった。

 

俺と田中は一体何を見たのか分からず、

混乱していたと思う。

 

「寝てて、夢を見た」

 

沈黙を破るように、

伊藤がふっと口を開いた。

 

「おまえらがどっかの部屋にいて、

首吊って死んでた」

 

三人同時に顔を上げた瞬間、

部屋の照明がパッと落ちた。

 

その刹那、

 

ソファーテーブルの上を、

すぅーと白い人影が通り過ぎた。

 

(終)

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