色んなモノを寄せ憑ける体質 1/2

ヤドリギ

 

ちょっと気になることが立て続けに

あったので聞いて欲しいんだ。

 

俺は子供の頃からオカルトの類が

大好きでな。

 

図書館なんかで読んでいたのは、

 

いつも日本の民話や世界の昔話の

怖いものばかりだった。

 

四国の片田舎で育ったから、

遊び場は神社や昔の塚。

 

小高い丘の中腹には

横穴が掘られていて、

 

中に何かを祭っていたり、

 

戦時中は防空壕として

使われていたり。

 

バチあたりというか、

怖いもの知らずというか。

 

そういうところに入り込んでは、

日が沈むまでやんちゃして。

 

つまり俺は怖いものは大好きだけど、

てんで霊感の類はないんだ。

 

そんな霊感ゼロの俺の周りには、

なぜかいつも霊感の強いやつがいた。

 

小学校の時だ。

 

同じクラスにAちゃんという、

霊感の強い女子がいた。

 

うちの母校は戦時中、

 

兵隊さんの駐屯地として使われていたり、

すぐ側にでっかい軍人墓地があるせいか、

 

Aちゃんはよく軍人さんや子供の霊を

見ていたようだ。

 

子供心に作り話のうまい子だなあと思って、

面白半分にしか聞いてなかったけど、

 

Aちゃんの霊感の強さは、

 

遠足の時に撮影された写真が

証明することになる。

 

Aちゃんが写っている写真が、

どれもこれもおかしいんだ。

 

赤いオーラが写り込んでるなんてのは

全然かわいい方で、

 

Aちゃん一人が

大きく写っているはずの写真は、

 

一枚は右足が無く、

一枚は首が無かった。

 

遠足以来、

なぜかAちゃんは俺を避けていた。

 

意地悪も何もやった覚えのない俺は、

 

ある日の昼休みにAちゃんと仲良しだった

Bちゃんに訳を聞いた。

 

Bちゃんは困ったように、

 

「遠足の写真はミナト(俺)のせいだ」

 

と言っているそうなのだ。

 

「どういうこと?」

 

「ミナトと一緒に撮ったり、

 

ミナトが傍にいた写真が

みんなおかしいって・・・

 

遠足のあとも、学校でも、

 

ミナトが傍にいるといつも

変なものを見るんだって」

 

たしかによく見直すと、

 

集合写真やみんなでゲームを

している写真など、

 

俺も写っている数枚の写真に、

赤い光の帯が写り込んでいた。

 

Aちゃんによると、

 

写っていないだけで

他の写真を撮った時も、

 

必ず俺が傍にいたらしい。

 

俺はカッとなって、

 

Bちゃんが止めるのも聞かず、

Aちゃんに詰め寄った。

 

「何言いがかりつけて

人の陰口言ってんだよ!」

 

Aちゃんは驚いて俺を見ていたが、

そのうち様子がおかしくなった。

 

目をまん丸に見開いて

ガクガク震え出したかと思うと、

 

「いやああああ!!」

 

と叫んで、

泣き喚き始めたんだ。

 

その声を聞きつけた先生に連れられて

Aちゃんは教室を出ていき、

 

俺はAちゃんをいじめたという罪で、

こっぴどく叱られた。

 

それから一ヶ月、

Aちゃんは学校に来なかった。

 

中2の合宿では、

 

血まみれの男の霊を見たと、

隣のクラスの女子が泣き喚いた。

 

中3の長崎への修学旅行では、

 

原爆の資料館でうちのクラスの

生徒と先生が吐いて倒れた。

 

高2の広島の修学旅行では、

 

旅館の食堂の窓が突然割れたり、

移動バスのタイヤがパンクした。

 

俺はやっぱり、

団体行動に縁がないと思っていた。

 

大学へ進学し、

大阪で一人暮らしを始めた俺は、

 

売れない漫才師のむっさんと出会った。

 

むっさんは漫才師としての

収入だけでは生活できず、

 

夜はカウンターだけの

小さな居酒屋で働いていた。

 

俺はその頃、

 

恥ずかしながら夢があり、

大学と生活費を稼ぐためのバイトで忙しく、

 

深夜でも格安の値段で

旨いものを食わせてくれる、

 

むっさんの店に入り浸っては

青臭い夢を語ったり、

 

むっさんの話に爆笑していたんだ。

 

むっさんは時々、

俺の背中をバンバン!と、

 

強く叩いたり、

さすったりすることがあった。

 

野郎にそんなことをされて

喜ぶ趣味はないんだが、

 

むっさんにそうされると、

 

なんだか背中が温かく、

軽くなった気がして気持ちよかった。

 

「なあ、むっさん。

それ何やってんの?」

 

「ああ、これ?」

 

むっさんは笑って、

ほっけを焼きながら言った。

 

「ミナトはいっつも何か背負ってるからな。

落としてやってんだよ」

 

背負ってる?

 

疲れやプレッシャーやストレスのことだろう。

 

俺はむっさんが焼いてくれた

ほっけを食いながら、

 

そう思っていた。

 

「あんまり体弱らすと、

 

背負いきれないもの背負っても

知らねーぞ」

 

むっさんが真顔でそう言った時も、

 

無理はするなって

忠告してくれたんだと思い込み、

 

一人で感動していた。

 

そんなある日。

 

仕事先のバイト君が、

俺を飯に誘ってきた。

 

あまり職場の人間と行動を共にしない

バイト君からの誘いに驚いたが、

 

断る理由もなく、

バイト君と居酒屋へ。

 

あまりお互いのことを

知らなかったこともあり、

 

自己紹介的な話をしつつ、

 

二品三品と食ったところで、

バイト君が切り出した。

 

「僕ね、

 

あんまり人と飯に行くの

好きじゃないんです。

 

その理由、わかります?」

 

「はぁ?なんで?」

 

「例えば、

3人で居酒屋に行ったりするでしょ。

 

でも僕にだけは、

3人以上の人数が見えるんです」

 

「・・・はぁ」

 

霊感商法ってやつですか。

 

正直、呆れたのと同時に、

バイト君の誘いに応じたことを後悔した。

 

「大抵みんな信じてくれないし、

僕も見えちゃうとしんどいし。

 

滅多に人には言わないんですけどね」

 

俺の考えを見透かしたように、

バイト君が苦笑した。

 

「でも、あえて言いますね。

 

・・・ミナトさん、

 

あなた日替わりで色んなモノ

連れすぎですよ

 

何言ってんの、こいつ。

 

何も言葉が出ない俺に対して、

バイト君は静かに続けた。

 

「ミナトさんは、

まるでヤドリギみたいに、

 

色んなモノがやって来ては

離れていってます。

 

※ヤドリギ(宿り木)

他の木に寄生する草木のこと。

 

それ自体は問題ないんですよ。

 

ミナトさんはどうやら見えてないみたいで、

まったく気になってないみたいですし」

 

バイト君は下戸だそうで、

ウーロン茶を一口飲んで続けた。

 

「でも、時々僕が同じ部屋に

いるのがツライくらい、

 

強いモノがしがみ付いてる

時があります。

 

もう見てられません。

 

専門家に見てもらった方が

いいですよ」

 

俺は唖然としたのだが、

 

『専門家→精神科→基地外』

 

そう言われた気がして・・・

 

「病院なんか行く必要ねえよ!」

 

って怒鳴ってしまったんだ。

 

でもバイト君は怯まなかった。

 

「信じてもらえないのは分かります。

 

でも今のままだといつかミナトさんに

実害があるかも知れないんです。

 

時々、ミナトさんの周りで

温かい空気を感じるんです。

 

残業で遅くなった夜とか。

 

ミナトさんの相談に、

乗ってくれてた人いませんか?

 

その人が心配のあまり気を送って

守ってくれてるんですよ

 

むっさん。

 

とっさにむっさんの顔が浮かんだ。

 

俺はそのままバイト君を連れて、

むっさんの店に向かった。

 

(続く)色んなモノを寄せ憑ける体質 2/2

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