双眼鏡を覗いて見えたもの

双眼鏡

 

友人と二人で、

ドライブをしていた時の出来事。

 

その日は二人とも暇を持て余し気味で、

特にアテもなくブラブラとしていた。

 

夕日はすでに沈みかけ、

寒さのキツイ季節であることも手伝い、

 

もう今日は帰るかと、

夕闇の中を家路の途についていた。

 

途中で友人がこの道の方が早いと、

海に面する道路に出た。

 

俗に言う、

湾岸道路というやつだ。

 

辺りはすっかり暗くなっていて、

 

もうしわけ程度に出た月が、

夜の暗い海をうっすらと照らしていた。

 

俺はそんな薄暗い海を、

ぼんやりと眺めていた。

 

その時、「ん?」と、

 

何か白いものがぼんやりと、

海の上に浮かんでいるのに気づいた。

 

ただ、ここから見て

かなり遠い位置にあるので、

 

それが何なのかは全く見当もつかない。

 

何かがゆらゆら動いているような。

 

だがそれも車の中にいるせいなのか、

よく分からない。

 

俺は疲れているせいもあってか、

別段そのことを友人に報告するわけでもなく、

 

やはりただボーっと、

その白いゆらゆらを見ているだけだった。

 

ふと、俺はドアの下のポケットに、

小さな双眼鏡が入っているのに気づいた。

 

こんなものあったっけ?と思いつつ、

 

なにやらこれを使わなければならない

という使命が、

 

俺の体を躊躇なく動かせた。

 

俺は双眼鏡を手に取ると、

 

少し不気味に思いながらも、

ヒョイっと双眼鏡を覗いた。

 

「うわっ!」

 

俺は慌てて双眼鏡を

元のポケットに放り投げた。

 

一瞬しか見ていないので

はっきりとは分からないが、

 

何か白い顔のようなものが、

目の前に映ったのだ。

 

ただ、表情までは分からないが、

顔は真正面のようだった。

 

俺は急に怖くなり、

 

もう海の方は見ず、

前を向いてブルブルと震えていた。

 

運転している友人に、

この事を言おうか迷ったが、

 

せめて家に着いてから言おうと、

ずっと黙っていた。

 

友人も疲れているのか、

こっちに見向きもせずに、

 

ただ黙々と前を向いたまま

運転に専念していた。

 

俺も友人も押し黙ったままで、

すぐに湾岸道路も抜け、

 

そうこうしているうちに

友人の家に着いた。

 

俺は初めてここで「あれ?」と思った。

 

いつもなら俺の家の前まで

送ってくれるのに・・・

 

「おい、今日は送ってくれないのか?」

 

俺は友人に訊いてみた。

 

久し振りに発した言葉だ。

 

だが友人は何も言わず、

 

チョイチョイと降りろと言うような

ジェスチャーをして、

 

俺を無理やり引っ張っていった。

 

友人は俺の腕を掴んだまま、

ずんずんと歩いていく。

 

そして家の玄関を開けると、

 

俺を無理やり引き入れ、

素早くドアの鍵を閉めた。

 

「そこで待ってろ」

 

友人はそう言うと、

 

なにやら奥から塩を持って来て、

俺におもむろにぶっかけてきた。

 

「うわっ、なにするんだよ!」

 

友人はそう言う俺を無視して、

自分の頭にも塩をかけている。

 

「ちょっと来い」

 

友人はまたもや俺の腕を掴んで

部屋に引き入れると、

 

俺を無理やり座らせた。

 

そして一言、

 

「あのレンズの付いていない双眼鏡で、

お前は一体何を見た?」

 

その直後、

俺が固まったのは言うまでもない。

 

(終)

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