一家離散した土地に残された黒い石

 

うちの実家は近所付き合いが多い

大らかな田舎で、

 

近所の子供達がよその家の庭に

入って遊んでいても、

 

あまり文句を言われない様な

土地柄だった。

 

たまに農具を出していたりすると、

 

「○○ちゃん、そこ危ないよ～」

とか言われる程度で･･･

 

うちの目の前にある家も例外ではなく、

よく遊びに行っていた。

 

玄関の横には立派な『黒い石』が

建っていたのが印象的な家だった。

 

そして数年後、

その家のお婆さんが亡くなった。

 

なんでも、

 

介護とかをあまり受けられず

寝たきりになってしまい、

 

農家なので仕事中は家を空ける事も多く、

近所の人がたまに面倒をみてあげていたが、

 

痴呆と綺麗にする事を忘れた老婆は、

 

以前の「優しいお婆ちゃん」からは、

かけ離れた印象だったらしい。

 

その後、

連続でその家を不幸が襲う。

 

おじさんは会社をクビになり、

家に寄りつかず酒におぼれ始めた。

 

奥さんは数年間その家を守っていたが、

とうとう離婚。

 

長男は交通事故の後、

どこかへ出て行ってしまった。

 

そして奥さんが家を出て行き、

おじさんが戻ってきて家を整理した。

 

恐らくは、

借金か何かだったのだろう。

 

一家離散し、

家を取り壊した土地には、

 

玄関の横にあった黒い石が

ポツンと置かれていた。

 

子供の頃にはよく遊びに行っていた庭が、

実は随分と狭かった事にも気がついた。

 

が、近所の人がそれを見て、

 

気にしたのは庭ではなく、

黒い石の方だった。

 

「真っ黒くて立派な石だったはずなのに、

白いスジが入ってないか？」

 

「白いスジが人の顔に見えないか？」

 

私も見てみたが、

 

その黒い石には確かに、

白いスジが浮かんでいた。

 

当時、よく遊んでいた私から見れば、

そんなスジは明らかに無かったはずである。

 

しかもその顔は、

 

よく見ると白髪を伸びるに任せた

老婆の顔に見えた･･･

 

私はとりあえず手を合わせておいた。

 

（終）