呪術系の特殊な家系に生まれた同級生

トンネル

 

大学の同級生にAさんという女性がいる。

 

今年の四月にゼミで知り合った。

 

俺とAさんは化学系の学科で

実験などもするんだけれど、

 

実験中も数珠のようなブレスレットを

Aさんは絶対に外さない。

 

それも、変わった民族系の店などで

売っている感じのものではなくて、

 

わりと良いものっぽい感じがした。

 

「それって、おまじない?」

 

と訊いたら、

 

「お守り。お母さんに貰った」

 

Aさんはとても真面目な顔をして、

そう答えた。

 

俺はそのゼミの男子で唯一の喫煙者で、

Aさんも女子の中で唯一の喫煙者。

 

だから自然と喫煙所で一緒になることが多く、

そのうち色々と話したりするようにもなり、

 

次第に親しくなっていった。

 

俺がオカルト好きなことを話したら、

ポツポツと色々な話をしてくれるようになった。

 

一つ一つの話をすると長くなるんだけれど、

“Aさんは特殊な家系の生まれ”らしいんだ。

 

シャーマンではなく呪術系の。

 

※シャーマン

シャーマンは、トランス状態(通常とは異なった意識状態)に入って超自然的存在(霊、神霊、精霊、死霊など)と交信する現象を起こすとされる人物のことである。

 

「信じなくても別にいいけど」

 

と言われたが、

 

見栄張って霊感少女を気取るタイプの

人ではないから信じていた。

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彼女の身に起きた事とその行方は・・・

そして今年の夏、

 

ゼミの中の何人かで地元の幽霊スポットへ

行くことにしたんだ。

 

真夜中に肝試し感覚で。

 

実はその前にあった飲み会の時、

ゼミの中のお調子者のBに、

 

「Aさんって霊感あるらしいよ」

 

と話をしちゃっていた。

 

するとBが「Aさんを呼ぼう!」となり、

 

Aさんを誘ったんだけれど、

当然ながら「嫌だ!」と断られた。

 

しかしBは、

 

普段物静かで割と皆の輪から外れている

Aさんを弄りたかったらしくて、

 

半ば無理矢理に同行させたんだ。

 

俺は知らなかったんだけれど、

Bは肝試しの日程をずらして、

 

「ゼミの皆でレイトショー見に行こう」

 

とAさんを誘っていた。

 

Aさんは映画好きだったのもあって騙され、

そのまま車に乗せて連れて来ちゃったらしい。

 

車二台に分けて行ったので、

 

目的地で「あれ?何で来てるんだ?」

という感じになった。

 

噂の幽霊スポットとは、

ありきたりなんだけれど、

 

閉鎖されたトンネルと、

その側の藪の中にあるお堂。

 

Aさんは「車から出たくない」と言ったが、

Bが無理矢理に引っ張り出して・・・

 

さすがに「やめようよ」と言ったが、

 

他の皆はAさんの(オカルト系の)話を

俺みたいに聞いていなくて、

 

“空気読め”みたいな雰囲気になって・・・

 

するとAさんが、

 

「いいよ、行ってやる!!」

 

と半ば逆切れのようになって、

付いて来てくれた。

 

メインはお堂の探索で、

 

お堂の中にはご神体が収められている、

と言われていた。

 

(刀だという噂だった)

 

それを確かめようと、

Bがお堂を開けようとした時、

 

「絶対にダメだ!」

 

とAさんが言った。

 

でもその頃にはBもムキになっていて、

 

「いい加減にしろ!

エセ霊能者のくせに!」

 

などとAさんを罵(ののし)って、

そのまま開けてしまった。

 

お堂の中には、

長い棒のようなものが入っていた。

 

俺は怖かったから少ししか見ていない。

 

多分、噂の刀だったんだと思う。

 

それをBが引っ張り出してきて、

 

「なんだよ、何にもないじゃん」

 

・・・と。

 

その時、

何か空気が変わった。

 

夏なのに急に寒くなってきて、

耳鳴りのようなものまで・・・

 

「やばいから逃げようよ!」

 

と言ったんだけれど、

Bが全く動かない。

 

何か様子が変だった。

 

俺は「逃げようよ」と言って近付くと、

 

手に持っていたその長い棒のようなもので

いきなり殴りかかってきた。

 

驚いて仰け反っていると、

AさんがBの腕を掴んでいた。

 

そしてAさんは、

何かブツブツと言っていた。

 

よく聞こえなかったが、

 

「ゴンゲンノ」とか、

「ヤチダノ」とか、

 

そんなような感じのことを。

 

そうこうしているとBはへたり込み、

AさんがパシーンとBの頬を引っ叩いた。

 

他の人にBを担がせ、

 

Aさんはお堂にBが持ち出したものを

元通りにしまって扉を閉め、

 

何かブツブツとまた言っていた。

 

そして帰りには、

 

AさんがBのいる車に乗りたくないと言って、

俺たちの車に乗ってきた。

 

「さっきのって、あれ?」

 

と俺が訊くと、

 

「分かんない。

でも当てられたんだと思う」

 

と一言。

 

凄いねって言ったら、

 

「凄くないし、

前にも言ったけれど、

 

私は拝み屋じゃないから

祓いとか出来ない」

 

と言われた。

 

そこで気付いたんだけれど、

 

Aさんがいつも腕にしていた

数珠が無くなっていた。

 

それを指摘すると他人事みたいに、

 

「さっきの騒動で切れたんだと思う」

 

と言って笑っていた。

 

「大丈夫なの?」と訊くと、

「分からない」と。

 

それ以上、俺は何も言えなかった。

 

その数珠は以前に、

 

Aさんのお母さんが自分にくれた

大切なものだと聞いていた。

 

何かよく分からないけれど、

 

Aさんの家というのはある家の

云わば『影』なんだそうだ。

 

予知や呪いなどを本家のために請け負う、

そんな家系だったらしい。

 

今はさすがにやってないらしいけれど、

 

Aさんにも、その家の代々の人達にも、

そういった力があるんだそうで。

 

現に俺も一度だけ、

Aさんに占ってもらったことがあったが、

 

何も言ってないのに、

色々なこと言い当てられて驚いた。

 

そして夏休みが明けた日から、

彼女が大学に来なくなった。

 

噂では、

身体を壊して実家で療養しているという。

 

教授は「病気」だと言っているが、

俺は彼女の極親しい人から、

 

「自殺未遂して少しおかしくなった」

 

と聞いていた。

 

その友人は実家まで会いに行ったらしいが、

 

両親に「母方の家に預けてる」と言われて

追い返されたらしい。

 

俺が聞いていた彼女の家系の話は、

母方の家にまつわる話だったから、

 

夏の事件が関係しているんじゃないか・・・

と思っている。

 

ちなみに信じなくてもいいけど。

(彼女の口癖だったなぁ・・・)

 

(終)

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