どんなお店が入ってもすぐに潰れてしまう
どんなお店が入っても、1年以内に潰れてしまうところがある。
そこは20年くらい前から近所にあるテナントだ。
ネームバリューのある有名なチェーン店が入ってもダメだった。
立地は国道沿いで、大きな駐車場もある。
入りやすく出やすいし、悪いところなんてパッと見た感じでは見当たらない。
実のところ、その建物自体に人が拒否反応を起こす『何か』がいて、その何かを感じたり見てしまった時の話をしようと思う。
羽の生えた小さいおっさん
そのテナントに最近また違うお店が入ってオープンしたのだが、これはそのお店になる一つ前のお店の話。
夜の8時頃、家族4人でそのお店に入った。
半袖を着ていた記憶があるので、初夏から夏の終わり頃の寒くはない時期だと思う。
その建物には実は何回か来たことがあったが、内装はどのお店が入っても同じで、4人掛けのボックス席が規則性なく空いているスペースに設置してある。
ネットカフェを想像してもらえばいいと思う。
また、他のお客さんからは他の席は見えず、立っても頭がやっと見える程度の背の高い仕切りに区切られている。
何度来ても「閉鎖的な作りだな」という印象を受ける店の作りだった。
その日は私達しか客がいなかったと思う。
全てのボックス席を見て回ったわけではないので確実なことは言えないが、気配を感じなかったし、声も聞こえなかった。
私達は窓際の席に座った。
一通り食事を終えて一息ついていると、妻が「今そこを何かが通った」と言った。
ボックス席なので、人が通っても視線を移した時には通りすぎた後くらいの隙間しかなく、「人が通ったのを見間違えたんじゃないの?」と笑って返したが、妻は至って真面目な顔で私を見ていた。
妻は昔からそういうのが見えるらしく、私の実家へ行った時には「ベランダに半纏(はんてん)を着たおじいさんが立ってる」と言っていたことも。
のちに、それは死んだ母方のじいさんだったと分かったが。
子供を産んでからは成りを潜めていたが、紹介しきれない逸話が他にも色々とある。
その妻がそんなことを言うものだから、にわかに真実味を帯びてくる。
何が見えたか尋ねると、「羽の生えた小さいおっさん」だと言う。
私は笑ってしまった。
そんなものなら見てみたいと笑い飛ばしたが、妻は気味が悪いから早く出ようと言う。
そこまで言うのならと帰る準備をして、トイレと会計を済ませようと私はトイレへ向かった。
そのトイレで奇妙な感覚に陥る。
当然のようにトイレには男性用と女性用のプレートが貼り付けられている。
男性用はハットを被ったスーツ姿の男性が青く描かれている。
もちろんシルエットだけの簡単な物だ。
私はそれを『怖い』と感じた。
今にも動き出しそうだと感じた。
全然リアルではなく躍動感もないのに、動き出すと感じたのだ。
そんな馬鹿なと自分に言い聞かせて中に入り、便器の前でチャックを下ろした時、本能的にここに居たくないと思った。
説明は出来ないが、一刻も早くここを出たいと感じていた。
次の瞬間、私は手も洗わず飛び出し、ボックス席の間をぬって、脇目も振らずレジへと早足で進んだ。
その時に、「ボックス席に誰もいませんように・・・」と頭の中で考えていた。
何故かは分からないが、身の危険的なものを感じていたのだと思う。
レジにたどり着くまでに、前後左右に何かがフッフッと通るのを感じる。
妻の言う『羽の生えた小さいおっさん』が頭をよぎる。
やはり説明は出来ないが、とにかくここに居たくなかった。
会計を済ませ、車の中で感じたことを妻に話した。
妻曰く、私には霊的なものを感じる力はなく、どちらかといえば動物的な感覚が鋭いらしい。
そして、「そのあなたが本能的にヤバイと感じるということは、あそこには何かがある」と。
どのお店が入っても続かないのはそのせいじゃないか、という話で落ち着いた。
妻と私の意見は、「どんなお店が来てもあそこには行かない」で一致した。
しばらくした頃、冒頭のお店は潰れてしまい、最近また違うお店がオープンした。
その話を妻にすると、「行きたくない」という意見で今も一致している。
(終)