母の霊が家に帰ってきた1ヶ月間
母は長い闘病の末に亡くなった。
これは、母の死からちょうど半年が過ぎた頃の不思議な出来事。
当時、父と私で暮らしていた。
弟はすでに隣県で暮らしており、仏壇は弟の家に、お墓も弟の近所に作った。
月命日には車で1時間のお墓を、父と私は参っていた。
足腰が弱っていた父はある日、坂道を転んで起き上がれなかったところを、たまたま通りかかった近所の人に助けられた。
軽い怪我ですんだが、父はかなりショックを受けて落ち込んでいた。
その数日後、私は母の夢を見た。
紫色のベッドの上に座って、にこにこ顔で「一時退院の許可がでたの」と言ってきた。
その頃から家に生臭いニオイが漂うようになった。
廊下をつたってその臭気は2階の私の部屋まで漂ってきて、私はトイレ用の消臭スプレーを数時間おきに撒き散らさないと寝れない臭さだった。
臭気の元をたどると、風呂場あたりらしかった。
ちょうど初夏で、母が亡くなった後はバタバタして風呂掃除をサボっていたな、ヤバい…となり、急いで掃除した。
だけど、それでも臭気はおさまらない。
消臭スプレーは2本目に突入。
廊下の窓を少し開けて換気も良くしてみたが、生臭いニオイはおさまらなかった。
ただ、1階の父の部屋には臭気は漂っていなかった。
そんなこんなしていたら、また月命日がやってきた。
父の運転で墓参りに行く途中の会話で、先日に父は初めて母の出てくる夢を見たという。(私の方は母が亡くなってからすでに数度、母の夢を見ていた)
夢の内容は話してくれなかったが、愛妻家だった父はその夢を見た頃から元気を取り戻していた。
臭気が漂い始めてから1ヶ月が過ぎた頃、私は不思議な夢を見た。
我が家の一番広い部屋で、壁際に沿って黒い服を着た人達が部屋の中央に向いて座っている。
その人達に混じってお坊さんもいる。
よく見たら、母の葬式に来てくれたお坊さんだ。
だけど、部屋の中央には何もない。
何もない空間に向かって、お坊さんはお経を唱えているらしかった。
その夢を見てから、途端に臭気は消えた。
不思議としか言いようがなかった。
3本目の消臭スプレーを買ったばかりだったが、ほとんど使わなかった。
たぶんあの1ヶ月の間、母の霊が家に滞在していたんだろうなぁと思っている。
(終)