仏間に漂うものとその後

仏間

 

俺の実家は古い木造で、中でも『仏間』がなんだか妙だった。

 

そこだけ異様に空気が重くて、居心地が悪い感じがした。

 

窓がなく、四方を襖戸で囲まれていて、襖を開けっ放しにしていると、やけに怒られた。

 

他の部屋ではそんなことはなかったのに、なぜ仏間だけ?と不思議に思っていた。

 

でも、何年も暮らすうちに、その理由がわかった。

 

誰もいないはずの閉め切った部屋の中から、ぐるぐる歩き回る音が聞こえたり、ぼそぼそと人が話すような声がしたりした。

 

視線を感じて振り向くと、少しだけ開いていた襖がスーッと閉じるのが見えたり、中から「バン!バン!」と物凄い力で襖を叩く音が響いたりすることもあった。

 

そんなことが年に何度かあった。

 

「仏間の中に何かいる」と家族に訴えるたびに、「仏間に近づくんじゃない!」と、ただ怒られるだけだった。

 

そのうち、敷地内に新しい家を建てることになった。

 

その際、なぜか邪魔になるわけでも、傷んでいるわけでもないのに、古い家の”仏間だけ”がきれいに壊された。

 

仏間がなくなった家は、驚くほど明るい雰囲気に変わった。

 

「あそこには何がいたの?」と親や祖父母に聞いてみたが、「わからないけど、ご先祖様って感じじゃなかったね。なくなって本当によかった」と笑って答えるだけだった。

 

その言葉を聞いて、家族もみんな、あれを見たり聞いたりしていたんだな、と思った。

 

(終)

AIによる概要

この話が伝えたいことは、古い家の中に存在した「何か得体の知れないもの」への家族の共通した恐れや違和感、そしてそれを乗り越えるために家族が選んだ静かな決断についてです。仏間に感じる異様な雰囲気や不可解な現象を通して、目に見えないものが確かに「そこ」に存在しているのだと感じられる一方で、それが何であるのかは最後まで明かされることはありません。この曖昧さが、話の中に潜む恐怖や神秘性を強調しています。

また、家族全員がその異様さを共有していながら、明確に言葉にせず、ただ「仏間に近づくな」と警告するにとどめていたことが、人々の「見えないもの」に対する不安や敬遠の気持ちを表しています。そして最終的に、仏間を壊すことでその「何か」から解放された家族がほっとしたように語る場面からは、過去の恐怖や違和感を超えて新しい始まりへと進む心の安堵感が伝わってきます。

この話は、家や空間に宿る見えない力、そこに対する人々の畏怖、そしてそれと向き合うための無言の共感や行動の重要性を描いていると言えます。また、明確な答えがないことが、現実における未知の事象への対処や感情を想起させ、読者に想像の余地を与えています。

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