風に乗ってきた不思議な何か
大学時代、一人暮らしをしていた。
住んでいたのは、特別古くも新しくもない、平均的なワンルームのアパートだった。
2年目の冬のこと。
帰宅後の習慣で、換気のために窓を開けた。
そのとき、冷たい風に乗って『何かがふわっと入ってきた』ような気がしたが、特に気に留めることもなく、普段どおり生活していた。
ところが、それから部屋の中が異常に湿気っぽくなった。
1年前の冬はそんなことはなかったし、梅雨の時期ですらここまで湿度が高くなることはなかったのに。
玄関にある備え付けの木製の下駄箱は、あっという間にカビだらけになり、中はまるでナウシカの腐海のような状態に。
部屋の隅の床や壁も、どれだけ気をつけても水滴が浮き、カビが生えてしまうようになった。
「敷金は返ってこないだろうな」と覚悟した。
それどころか、追加の清掃費まで請求されるかもしれないと思うと、気が重かった。
また、その頃から、“部屋に自分以外の誰かがいるような気配”を感じるようになった。
もともと掃除や換気には気を遣う方だし、今までこんなことはなかった。
「もしかして、何か霊的な現象なのか?」と考えたが、貧乏学生の身では引っ越す余裕などない。
それに、なぜか「これは一過性のものだ」と感じていた。
急に始まったのだから、急に終わるだろう、そんな気がしたのだ。
それから3ヶ月ほど経った頃。
少し暖かくなってきたなと思いながら窓を開けると、外からの風とは別に、部屋の中から『何かがふわっと出ていった』。
その瞬間、部屋の空気がすっと軽くなり、妙に広くなったように感じた。
関係があるかはわからないが、その直後、5万円程度の宝くじが当たった。
退去時のハウスクリーニング代で消えたので、結局プラマイゼロだったけど。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、日常の中にふと紛れ込む不思議な出来事と、それに対する人間の感覚や捉え方だと思います。
語り手は、ごく普通のアパートで暮らしていたはずなのに、ある日を境に異常な湿気や得体の知れない気配に悩まされるようになります。けれど、恐怖に飲み込まれるわけでもなく、「そのうち終わるだろう」と妙に楽観的な感覚を持ってやり過ごしている。その直感は結果的に当たり、ある日ふと何かが抜けていくように状況は収束する。まるで、見えない何かが入り込み、そして去っていったような感覚です。
そして、それと関係があるのかどうかはわからないけれど、直後に小さな幸運が舞い込むという結末が、さらにこの出来事の不気味さと面白さを引き立てています。
人生には説明のつかないことが起こることがあり、それをどう受け止めるかによって、体験そのものの意味も変わる。そんな、不思議な出来事と、それに対する人の感覚の曖昧さが、この話の核になっているように思えます。